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和臣の話(4)

そうやって、ようやく気持ちの整理がつきかけた真冬のある日、久しく連絡していなかった(しのぶ)からメッセージが届いた。 彼はなかなか新装開店の目途が立たず、8月からかつて修行していた店の手伝いをしていると聞いていた。何度かラインのやり取りはしたが、綾人が出て行ってからなんとなく連絡しづらく、疎遠になっていた。 カズ ひさしぶり 突然だけど、どうしても会って話したいことがあります。 急ぎではないけれど、大事な話です。 連絡ください。 文面から、逡巡のうえで簡素化されたものだとうかがえ、和臣は胸騒ぎがした。 すぐに電話をかけると、向こうも仕事中なのか業務連絡を装った事務的な対応で、話の趣旨や重要性をはかりかねた。その日の夜に会う約束をしたが、その後はほとんど仕事が手につかなかった。 綾人のことに決まっている、和臣にはそうとしか思えなかった。 「悪いけど、世間話をできる気分じゃない。」 開口一番、忍はそう言った。 全卓個室の飲み屋を選んで、予約は和臣がした。約束の時間通りに着いて案内された小さな個室には、すでに忍が待っていた。喪服を連想させる黒いシャツ姿に、和臣はどきりとした。不吉だ。はやる気持ちを抑え、一通りの注文をし、ウェイトレスが部屋を出て行くのを待って、和臣は忍に笑いかけた。 「久しぶりだな。最近どうしてるんだ?店の方は―― 」 その途中で忍は深いため息をついて言った。 世間話をできる気分じゃない。 普段の忍は社交的だ。客商売をしていることもあり、穏やかで話がうまい。その忍がにこりともせずにそんなふうに言い放ったことに、和臣は強い不安を感じた。 「最初に聞くけど、カズと綾人君はいまどういう状態?」 そう訊かれることは分かっていた。和臣は用意していた返事を返した。 「夏の終わりに別れたのは知っているだろう。店が閉まってからすぐだよ。綾人が出て行ったんだ。それ以来連絡してないよ。」 連絡はしていなのではなく取れないのだが、未練があるように思われたくなかった。 忍から反応はなく、机に肘をついて手を顔の前で組んだり、頭痛がするのか掌で額を押さえたりしていた。 「何から話したらいいのか…… 」 そう言ってため息をつく。 言い淀む忍が話し始める前に、注文したものはすべてテーブルに並んだ。習慣から、乾杯もせずにグラスに口をつけることを躊躇したが、明るい話ではないことは察しがつく。 喉の渇きを感じた和臣は忍のグラスにもビールを注ぎ、自分のグラスに注いだ分は一気に飲みほした。 「わかっていると思うけど、綾人君の話だよ。…… 時系列で話す。俺も冷静じゃないから、口をはさむのは最後にしてくれ。」 そう前置きして、忍は話しはじめた。

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