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「井瀬塚? こんな所で何してるの?」 「園山!?」  思わず勢い良く顔を上げる。そこにはスーパーの袋をさげた園山の姿があった。もちろんヘッドホンはしている。 「どうしたの? 顔真っ青だけど」  声をかけられたのが知らない人でなくて良かったという安堵。園山が普通に話しかけてくれた事への安心。どんな顔をして話せば良いのだろうという戸惑い。こみ上げてくる吐き気の不快さ。 頭では処理しきれない、様々な感情が混ざり合う。それは涙となって、祥の瞳から零れ落ちた。 「い、井瀬塚、大丈夫? とにかくうちに入ろう」 「うち?」 「ここ、俺んちだから」  どうやら寄りかかっていたブロック塀は園山の家のものだったようだ、これも不幸中の幸いと言うのだろうか。  優しく話しかけてくれる園山の言葉に、さらに涙が溢れてくる。もうこれを自分の意思で止めることはできないだろう。 「井瀬塚、立てる?」 「……むり」  「じゃあ――――ほら」 「なに?」 「おんぶだよ。うちまで運ぶから」  そんなことさせて悪いとは思ったが、今の祥には彼に頼る以外助かる方法は無い。  ためらいつつも腕を伸ばし、その背中に身体を預けた。 「しっかり掴まってて」  園山がゆっくりと立ち上がると、身体がふわっと浮くような感じがした。  いつもより視線が高くなる。  酔いでくらくらする頭の片隅で、園山は普段こんな景色を見ているのか、と思う。  首の前に腕をまわすと、身体が密着してより体温が感じられた。その温もりに、心が少しずつ落ち着きを取り戻していく。 (園山のにおいがする……)  彼が着ているパーカーに顔をうずめると、その心地よさに眠気が襲ってきた。  家の中に入ると、園山は祥をおんぶしたまま靴を脱がし、部屋へと上がっていく。  玄関からすぐの所にあったリビングに入り、そこのソファにゆっくりと横たえられた。 「何か飲む? 麦茶でいいかな」 「ん…………」  もう、唇を動かすことすら億劫になってきた。  心身ともに疲れきっていた祥に、襲ってくる睡魔に勝つ術は残っていない。  園山のにおいがするソファの上で、ゆっくりとまぶたを下ろしていった。

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