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  *** (――――いま、何時だ?)  眠りから覚醒した祥は自らの腕時計を確認した。  時計の針は、八時過ぎを指している。 (ぇえ! 俺、どんくらい寝てた!?)  眠気が全く残っていないため、もしかしたら朝になってしまったのかと焦ったが、窓の外は真っ暗だった。  どうやら寝ていた時間は、二時間半程度で済んだらしい。  状況を確認しようと起き上がると、ソファの下に毛布が落ちた。祥が眠っている間にかけてくれたのだろう。その優しさに胸が熱くなる。  だが肝心の園山の姿が見えない。探しにいこうかと思いソファから立ち上がると、リビングの奥からエプロン姿の園山が現れた。どうやら奥は台所で、そこで料理をしていたようだ。両手に丼を持っている。 「もう起き上がって大丈夫?」 「ああ。悪いな、迷惑かけて」 「気にしないで。それより具合はどう?」 「もうすっかり元気。ほんとにありがと」  吐き気も倦怠感も治まり、祥の身体にはもう異常は残っていなかった。  寝かせてもらった上に食事まで作ってもらって、園山には本当に頭が上がらない。 「食べていい?」 「もちろん、どうぞ」  園山は笑顔で答えてくれた。 「いただきまーす! ……ん~、うまい! そういや俺、お前の料理食うの始めてだわ」 「そうだったね……。それで、何であんなに具合悪そうだったの?」 (あれ、俺がここに来た理由について触れないのか)  急に見ず知らずの土地を訪ねてきた祥に疑問を持ってもいいはずだ。園山にとってそれは大して重要ではないのだろうか。  ともあれ、気が優しい彼のことだ。まずは祥の身体の方が心配なのだろう。 「俺さ、こないだも言ったけど乗り物本ッ当に駄目で、酔い止めも飲まずにバスに飛び乗っちゃったから……。マジで気持ち悪すぎて死ぬかと思った」 「そっか、わざわざ来てくれたのに、大変だったね」 「うん……」 (えっ、何でなんにも聞かないんだ?)  別にどうしても聞いて欲しいわけではない。園山が、いきなり押しかけてきた自分を疑問に思わないことが疑問なだけだ。  いや、むしろこれは祥の方から話さなければならない。紫藤先生の言葉に背中を押され、後先のことも考えずにここまで来てしまったのだから。

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