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「永緒! 今日は優梨と昼飯食うぞ」
「え、筑戸と……?」
翌日の昼休み、祥は早速永緒に話を持ちかけた。
「ああ。食ってるときはヘッドホン外して、俺以外の声は聞こうとするなよ」
「分かった」
そう言って永緒はヘッドホンを外した。やはり少し緊張した面持ちだ。
二人で向かい合って机を並べていると、優梨がやってきた。
「待たせたな。自販機が混んでてさ」
「平気平気。そこ座れよ」
「んじゃ、お邪魔します」
その言葉は永緒にかけられていた。
だが二人の目が合った瞬間、永緒の表情が固まる。
(永緒? どうかしたか)
心の中で尋ねると、永緒は何でもない、と口の動きだけで祥に伝える。
自分の思い過ごしかと思っていると、優梨が祥の机で弁当を広げ始めた。
「おい狭いって。机二個くっつけてんだから、もっと永緒のほう行けよ」
「良いじゃん。机の境目だと安定しないんだよ」
「……あー、はいはい。勝手にどーぞ」
もう仕方がないと諦め、祥も購買で買ってきたパンを取り出す。
「祥お前、また購買のパンだけで済まそうとしてるじゃねーか」
「だいじょーぶ。今日はコロッケもあるんだ」
「大丈夫じゃねーだろ、全く……最近教室で飯食ってないから、どうしてんのかと思ってたけど、相変わらずだな」
「まあ、俺は健康だからいいんだよ」
優梨とそんな会話をしているうちに、永緒はもう昼食を食べ始めていた。
その姿は、どことなく元気がないように見える。ほとんど話したことがない優梨が入ってきて戸惑っているのだろうか。
祥は何とか三人で話せる話題を引っ張り出した。
「二人とも、テストどうだった?」
今日は数学や化学、古典のテストが帰ってきた。成績のことを聞くのは少し憚られたが、この際仕方がない。
「俺はまあまあかな。祥は?」
優梨が答える。優梨は点数があまり芳しくない時は、いつもまあまあだと言うのだ。
「俺もフツーかな。あ、でも数学は永緒に教わった所が出たから、結構良い点数だった」
「ほんと? 俺も化学で、祥と一緒にやったところが出て、点数、良かった……」
それはやや尻すぼまりな喋り方だった。どうも先ほどから様子がおかしい。やはり会話をしながら意識だけは祥に向けるのは難しいのだろうか。
(どうする永緒、やっぱりヘッドホンつけるか?)
だがその問いかけに永緒は首を横に振る。
(そっか、じゃあもう少しだけ頑張れよ)
今の祥には、永緒を励ますくらいのことしかできない。
だが祥の努力も功を奏さず、永緒はだんだん口数が減り、ついには一言も話さなくなってしまった。
昼食を終えて優梨が席を外した後も、永緒は心なしか気分が沈んでいるようだった。
「永緒、何かあったら早く言えよ」
「うん。でも、何ともないから。ありがとう」
「……なぁ永緒。明日からはフツーに屋上で食おうか」
「いいの?」
「ああ、いきなり弁当ってのは早すぎたかもしない。昼休みの余った時間で、クラスの奴らと少しずつ話していけばいいかなって」
祥は少し気が急いていたのかもしれない。永緒には永緒のペースがあるのだ。これは自分だけの問題ではないのだから、こちらがもっと合わせなければ。
「ありがとう。俺なんかのために、ここまでしてくれて」
「俺なんかって何だよ! 恋人のために、尽くしてやりたいって思うの、当たり前だと思うんだけど」
途中からは回りに聞こえないように、永緒の耳元で囁く。するとその顔に、困ったような笑みが浮かぶ。
「俺、本当に祥がいないと生きていけないかも……」
「ま、またそんな大袈裟なことを」
「大袈裟なんかじゃないよ。祥のお陰で俺、変われそうなんだ。これからもいっぱい頼るけど、よろしくね」
「おう。どんと来い! ずっと一緒だって言っただろ」
祥の言葉に、永緒は飛び切りの笑顔で応えたのだった。
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