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あんな風に豪語したものの、祥と永緒が二人でいられる時間はどんどん短くなっていく。
祥の部活動が忙しくなってきたというのもあるが、一番の原因は――。
「祥! 一緒に帰ろうぜ」
「ごめん優梨。今日部活なんだ」
「じゃあ終わるまで待ってる。俺、自習室で勉強してるから」
一番の理由は優梨にあった。
帰宅部の優梨は、今まで残ってまで祥と帰ったりすることはなかった。自習室に行くなどもってのほかだ。
元から朝はよく一緒に学校へ行っていたのだが、最近は毎朝祥の家の前で待っている。朝は苦手なはずなのに。
さらに、席替えで優梨と隣の席になったため、休み時間ごとに話しかけてくる。屋上のことは誰にも言っていないため昼休みまで一緒にいることは無いが、祥は急な優梨の変化に困惑していた。
もちろん優梨とは親友なので、そういった事が嫌な訳ではない。だが永緒との時間も大切にしたいのだ。
永緒のことも優梨のことも好きだ。だがなぜか、その好きの種類が二人によって違う。
どちらも傷つけずにこの問題を解決できないものか。
「はあぁ~」
「祥? どうしたの、食欲無いの?」
「そ、そんな事ねーよ。ほら見ろ永緒、今日はパンだけじゃなくてドーナツもあるんだ」
「相変わらずバランス悪いね……」
思わず永緒の前でため息をついてしまった。彼にだけは心配をかけたくなかったのに。
慌てて取り繕うと、相貌をじっと見据えられて、思わず身構えてしまう。
「悩み事があったら、すぐに言って」
「へっ?」
「――って感じのこと、祥がよく言ってくれるでしょ。いつも俺助けられてばっかだから、たまには、ね?」
そう言って永緒が微笑みかける。その言葉は、胸に迫るものがあった。
(永緒って、いつもこんな気分なのかな)
自分のことを気にかけてもらえる相手がいるだけでこんなに心強いとは。
そう思うと同時に、自分も永緒にこの気持ちを味あわせてあげられているのかと思うと、少し嬉しくなった。
しかし、これは祥自身の問題だ。友情と愛情どっちが大事? など、永緒にも優梨にも言える訳が無い。
「マジで何でもないってば。気にしすぎだよ」
「なら、良いんだけど……」
祥はパンを一口かじった。やっぱりこうして永緒とお昼を食べている時は落ち着く。
「にしても、最近暑くなってきたなー。お前、ヘッドホン蒸れないの?」
「ちょっと暑いかな。でも、慣れてるから大丈夫」
「ふーん。まあ、外しちまうのが一番だろうけどな」
「う、がんばります……」
祥がわざとらしく言うと、永緒は素直に謝ってきた。
「おい、そんな真に受けなくていいって。ゆっくりでいいって言っただろ」
「うん」
祥は初夏の空を見上げた。空一面が分厚い雲に覆われている。
梅雨に入ってからというもの、じめじめとした空気が町中に渦巻いている。
それを追い払うかのように肌にまとわりつく半袖のシャツの襟を摘んでぱたぱたと扇いだ。それでも吹きつけてくる湿った風の不快さに、顔をしかめずにはいられなかった。
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