42 / 50
7-7
***
「「祥、一緒に帰ろう」」
「……ぅん?」
その日の放課後のこと。後ろと横から同時に声をかけられた。
(いや、優梨も永緒も変える方向違うだろ)
祥の身体は一つしかない。どちらとも帰るなんて不可能だ。
「あれ? 園山クン、帰りは駅のほうじゃなかったかな」
「祥は、駅まで一緒に、来てくれる……」
「全く、お人好しだなー祥は。駅まで行ったら遠回りだから、俺と帰ろうぜ」
「祥……?」
この状況は、一体どうしたら良いのだろうか。
だが祥は決めかねていた。どちらも大切な恋人で親友なのだから――――。
「ああもう、面倒臭え! 二人ともじゃんけんしろ。勝ったほうと帰る」
少し強引な気もしたが、迷っているよりはマシだ。どうせ自分では答えが出せないと分かっていたのだから。
そして。
「じゃあな、永緒」
「うん、また明日」
じゃんけんの結果、祥は優梨と帰ることになった。
「いやー、ラッキーだったな。俺いつもじゃんけん弱いのに」
「そういや、そうだったな」
二人並んで住宅街を歩く。もう数え切れないほど歩いてきた道だ。
「なあ祥、今度古典教えてよ」
「えー、古典は俺も苦手で…あ、永緒に教えてもらえよ。あいつ意外と古典もできるんだぜ」
「ふーん。じゃあいいや」
「あ、そう……」
(何か、永緒と優梨って仲悪いのかな)
二人だけで喋っているところは見たことが無いが、祥を挟んで話すときは少しぴりぴりとした雰囲気になってしまう。永緒も優梨が居る時は、表情が強張っているように見える。
だが、お互いに表立って相手のことが嫌いというオーラを出しているわけではない。感覚的に合わないのだろうか。
優梨は永緒の友達第二号になると言っていた。話始めたら気が合わなかったという事なのだろうか。
「それにしても、祥と園山マジで仲良くなったよな。もうガツンとヘッドホン外せって言えるんじゃないか」
「いや、それは……ゆっくりでいいんだ」
「あいつにはずいぶん優しいんだな」
嫌味っぽく言われたのが心に引っかかった。
今日はやたらと突っかかってくるな、と少し不思議に思ってしまう。
二人の気が合わないのなら、今後優梨の前で永緒の話をするのは控えようと思っていた矢先。優梨の口から思いがけない言葉が発せられた。
「なぁ、祥と園山って、付き合ってんの?」
「――――えっ」
思考の一切が停止する。
(今、こいつ何て……)
衝撃のあまり、祥はその場で足を止めてしまった。
手に汗が滲んでくる。
「あれ、もしかして図星?」
声を出そうにも喉がカラカラでつかえてしまう。
明らかに平常心を失っている祥を見て、優梨が焦ったように言葉を繋ぐ。
「そ、そんな顔すんなって。え、何、本当なの?」
祥はゆっくりと頷いた。そして、つかえそうなのを堪えながら、かろうじて息に近いような声を出す。
「誰に、聞いた……?」
「あー、聞いたんじゃなくて、俺の勘。祥と園山って、何か特別な雰囲気を醸し出してる感じだし。お前気付いてないだろうけど、園山といる時、今までに見たこと無いようなスゲー穏やかな顔してることがあるんだよ」
さすがは幼馴染。そうとしか言いようがない。
まさか、気付かれていたなんて。
だは自分はなぜこんなに動揺しているのだろう。
親友ならば恋人ができたことを知られたぐらいでこんなに焦る必要があるのだろうか。
優梨だから?
優梨も永緒も大切な人だから?
それとも。
(男同士だから……?)
自分で下した結論に自らショックを受けてしまった。
永緒のことは好きだ。その気持ちは絶対に揺るがない。
男同士であることは、好きになったのがたまたま男だった、位にしか受け止めていなかったのだが。
やはりおかしいと言われてしまうだろうか。
ではなぜ、優梨には友情、永緒には愛情が湧いてくるのだろう。どちらも男なのに。
友情と愛情は、どちらのほうが大事なのだろう。
「祥? おーい、聞こえてる?」
顔を覗き込まれ、はっとして視線を上へと戻す。そして恐る恐る口を開く。
「やっぱ、男同士って、ヘンだよな……」
「ヘンじゃねーだろ。好きになっちまったモンはしょうがない」
「でも俺分からないんだ。何で優梨は親友として好きで、永緒は恋人として好きなのか」
祥は思い余って、とうとう言うまいとしていた事を口走っていた。
「――――その答え、明日の放課後までに出しとけよ」
「え?」
そう言い残して、優梨は先に行ってしまった。十字路を右に曲がり、姿が見えなくなる。
その場に取り残された祥は、呆然と立ち尽くすしすことしか出来なかった。
ともだちにシェアしよう!