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「永緒、そろそろ学校行くぞ」
「うん」
翌朝、二人はそろって身支度を調えていた。あの後どんどん夜が更けていき、結局永緒が祥の家に泊まることになったのだ。
「それにしても、七時に起きたのなんて久し振り。やっぱり学校と近いと良いね」
「当ったり前だろ」
二人が玄関を出たその時――
「あれ、園山クンはお泊りですか?」
玄関先に優梨が現れた。昨日の事もあり、少し顔を合わせづらい。
「優梨……」
「本当は祥に、昨日の事は気にすんなって言いに来たんだけど、園山が居るならちょうど良い」
そう言って優梨は永緒の目の前に立つ。
そして、おもむろに永緒のヘッドホンを外した。
(あいつ、何してんだ?)
優梨は言葉を発することなく永緒をじっと見つめている。
しばらくしてから、優梨は再びヘッドホンを永緒の耳に戻した。
その時、永緒がゆっくりと頷く。
「大丈夫。祥のことは、俺が絶対に守るから」
「!」
優梨が言ったであろうことは祥にも予想がついた。
「祥、そういう事だから。園山と上手くやるんだぞ」
「わ、分かってるって! ありがとな、優梨」
祥の言葉に、優梨はニッと笑って応えてくれた。そして、遅刻するぞと言って先に歩き出す。
その背中を目で追いながら、二人にこんなに想ってもらえて、自分は幸せ者だと思った。
永緒のヘッドホンも、いつ完全に外せるようになるかは分からないが、その日必ず来ると信じている。
「祥、どうしたの? 筑戸もう行っちゃったよ」
「おう、今行く!」
祥は駆け出した。
その上にはどこまでも続く蒼い空が広がっている。
今日は、梅雨晴れの心地よい日だった。
ー完ー
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