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プロローグ「水先案内人」
パラレルワールドとか、タイムトラベルとか。ありえないでしょって思いながらも、それを完全に否定できる程の知識も認知能力も持ってないのが今の人類なわけよ。
そう考えると、大都市の地下に一般人には知られていない街が存在するって方が、いくらか現実味を帯びたファンタジーじゃね?
その街の成り立ちは、また機会があったら説明するよ。某政権の陰謀の名残、とだけ言っておこうかな。とにかくそこには、碌でもない奴らが住み着いてんのさ。
戸籍がない奴とか犯罪者とか、そんなのは全くもって可愛いもんで。生物兵器の研究者とか、切断した人体で家具作ってる職人だとか、キメラ作りに成功したなんて噂になってる変人すらいる。
そこでは、地上の常識なんて一切通用しない。ユニコーンにだって会える街だ。
でも俺はマトモだぜ。なんてったって、こうやって地上のヒトとちゃあんと関わってっからな。
あ、申し遅れたが、俺の名前はチュン。お喋りスズメがチュンチュンってね。以後よろしくお見知りおきを。
あぁ、あんたは俺のことなんかより地下の街の方が気になるか。うんうん、そうだよなぁ。どこにあるかって?ふふっ、そーれーはー。
日本一有名な繁華街の地下の、そのまた地下さ。
想像してみなよ。ギラギラしたネオン街のとあるビルの一階に、吸い込まれるように車が消えていく。不親切なほどに急なスロープを下っていくと、そこにはびっくりするほどだだっ広い駐車場が広がってるんだ。
排気ガスが充満してるわ埃っぽいわで、お世辞にも快適とは言えないが、雑居ビルが密集した地上に比べりゃ随分贅沢な空間だ。一箇所限りの出入り口には、高速道路の料金所みたいな管理人室があって、中には死にそうなほど顔色が悪いおっさんが座ってる。何番に車を止めたと申告すりゃ、駐車券の半券をくれるって手順だ。アナログもいいところさ。
そんな駐車場を知ってるってだけでもかなりコアだが、そこを使う奴らも管理人のじいさんの顔なんてまともに見やしない。ましてや、管理人室の奥にある扉なんて誰も気にも留めない。
防火扉みたいなそっけない金属の扉だ、確かに目に留まるような代物じゃない。
でも、よくよく考えりゃ違和感に気付くはずさ。何しろ、そこは地下駐車場の壁のはずなんだから。
管理人室は壁にへばりつくように建ってんのに、なんでその奥に扉があるんだ?って。
そう、その奥に、地下街に下りていく階段があるんだ。その先が、さっき話したならず者どもの巣窟さ。
その名も、下ル下ル 商店街、だ。
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