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ビンゴ大会(遊技場『キッチュ』開催) 2
「お兄さんお兄さん、その借金を一発で完済できるどころか、プラスにすることさえ可能なゲームがあるんだけど、興味ない?」
違法カジノの入った雑居ビルの裏手で、絶望のあまり座り込んでいたトオルに、キツネ目の男はそう声をかけてきた。
「あぁ?何だよあんた」
胡乱 げにねめつけると、夏だというのに黒のタートルネックに身を包んだその男は、おどけたように肩をすくめた。
「こりゃ失礼。俺はチュン。案内人兼仲介人ってとこかな。参加費用が七桁からって賭けゲームの参加者を探してるんだ。どう?興味ない?」
ついさっき、違法カジノで多額の借金を背負ったばかりのトオルだ。その誘いに興味がないはずがない。あまりにも怪しすぎるが、にべもなく断ってしまうには、彼は追い詰められすぎていた。
「興味がないとは言わないけどな。でも、もう賭けられる金が残ってねぇし。まぁ、例えばだけど、かけ金貸してくれるってなら……」
我ながら駆け引きする余裕すら残ってないことがばればれで情けないが、藁をも掴みたい心境なのだから仕方がない。何しろ、闇金業者から借りた金まで全額すってしまったのだ。親はもちろん、友達にも女にも手当たり次第に借金しすぎて、もう返すために借りることすら難しくなっていた。
トオルの状況を察した様子のチュンは、思案げに顎に指をあてた。その仕草がどうもわざとらしいが、そもそもこの男は何から何までうさんくさい。
「金は貸せないが、別の参加方法を紹介できなかないぜ。あんたみたいな美形限定なんだが、ゲームアシスタントを募集してるんだ。マジックショーで箱の中に入ったりする姉ちゃんみたいなイメージだな。元手がない分、負けたらちょっと助平な目にも遭っちまうかもしれんが、勝ったら丸儲けだ」
トオルはあえて眉根を寄せてみせた。迷っているふりだ。気持ちはもう完全に、話を受ける方に傾いている。
ちょっと助平な目というのがどの程度のものかは知らないが、男の身では、尻を掘られる以上のことは思いつかない。ぴちぴちの処女尻だが、女と違って孕むわけでもなし、犬に噛まれたと思えば大したことではない気がする。
というか、怪我の度合いによっては死ぬリスクもある分、犬に噛まれる方がおおごとではなかろうか。
自分の尻に七桁の金額の価値があるとは思えない以上、ゲームアシスタントとしてタダで賭けに参加できるのは、願ってもない好条件と言えるだろう。
「配当は?」
乗り気を隠し切れずトオルが問うと、チュンはにやりと唇を歪め、内緒話をするように声を潜めた。
「実際に手に入る金額は参加人数次第だが、店側が取るのは一割で、残りの九割は勝者一人の総取りだって聞いてるぜ」
七桁の九割。つまり、参加費が一人100万円だとしても、90万円が勝者の懐に入る計算だ。何人規模のゲームなのかはわからないが、五人参加でも優勝賞金は450万円。勝てば、闇金へ元金を返済できる。
なんてこった。失うリスクがあるのは、おそらく尻の処女だけだ。
そこまでわかれば十分だった。トオルにこのチャンスを逃す手はない。
「わかった。そのゲーム、俺が取らせてもらうぜ」
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