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ビンゴ大会(遊技場『キッチュ』開催) 6
「んぁっ!」
思わず上げてしまった声に、トオルは羞恥を覚えて唇を噛みしめる。光に照らされているだろう場所で、尻の中のバルーンの空気を急に抜かれたのだ。
トオルが引き出された空間は、学生時代に体育祭で流れていたアップテンポの音楽――その曲が『天国と地獄』というタイトルであることを、音楽に疎いトオルは知らない――と、男達のものと思われる低いざわめきや忍び笑いで満たされている。
いまだに目隠しを外してもらえていないトオルは、押し広げられていた腹の中が急激に収縮する感覚に、がくりと膝をついてしまった。
後ろ手に手錠をされているため、顔面から床に激突しそうになったが、すんでのところで力強い手に左右から二の腕を掴まれる。どうやら、『バトラー』以外にも最低二人は男がいるらしい。
目隠しをされたトオルには見えていなかったが、ステージ上にはアシスタントとして、顔をフルフェイスのラバーマスクで覆った半裸の男が二人控えていた。上半身の肌がむき出しで、まさに筋骨隆々と呼ぶに相応しい体躯を誇っている。面積の小さなラバー製のショートパンツに覆われた股間はもこりと強調され、むせそうな程の雄のフェロモンを発していた。
彼らがあまりにも逞しい分、観客の目にはバニーコスチュームに身を包んだトオルがより華奢に見え、囚われたいたけな小動物のように映るのだ。
「では、ビンゴゲームの準備をいたします。詳細はステージ上部のスクリーンに映し出されますので、皆さまごゆるりとお楽しみくださいませ」
目隠しをされたトオルには、当然何も見えはしない。だが、マイク越しに朗々と説明をしているのは、『バトラー』だと声でわかる。バニーに扮し、床に膝をついた状態のトオルは、一体何が起こるのかときょどきょどと首を左右に捻った。
「まずは、こちらの台にウサギの手足を固定します」
トオルは手錠を外されると、アシスタントの逞しい男によって腰高の台の上に抱き上げられた。
ここでどうすればいいのかと悩む暇もなく、男たちの手で押さえつけられ、無理やり四つん這いにさせられる。
間髪入れず、先ほどの手錠のような感触の道具で手首が台に固定され、次いで足首も固定されてしまった。
膝は固定されていないため、胴体や尻は自由に動かせるが、手首足首を固定されていると、動きはかなり制限される。
ここまでくれば、『バトラー』が言う「ウサギ」が自分のことであり、今身につけているのがバニーガールの衣装だということは、容易に想像がついた。
つまりトオルは今、まるで水着のようにぴったりした素材のバニーコスチュームを、裸の上に直接身につけさせられているのだ。
二十代男子の身でハイレグを履かされている羞恥もさることながら、何よりトオルは、尻の辺りがすぅすぅするのがどうにも気にかかった。
「股間がうっすら透けているな」
「ウサギなのに尻尾がないじゃないか、可愛そうに」
忍び笑う客の言葉が聞こえてくるが、目隠しのせいで自分の状態が確認できない。
だが観客たちは、巨大なスクリーンでトオルの股間や尻、そして不安と羞恥に歪む顔をまじまじと観察していた。トオルが固定された台には、いくつものカメラが取り付けられているのだ。
特に尻は入念に撮影されており、引きで尻全体を捉えるカメラと、尻の穴をアップで狙うカメラの二台がかりとなっている。
そのため当然のことながら、しっぽがあるべき場所に開いた穴から、空気が抜けてしなびたバルーンが引き抜かれる瞬間も、巨大なスクリーンに克明に映し出された。
「あうっ……」
ちゅるんと出ていくゴムの感触に、トオルは小さく声を上げる。
だが、ごく小さかったはずのその声は、遠くから何倍にもなって響いてきた。カメラのマイクが音を拾っているのだ。
衣擦れ音をうまくカットするその高性能なマイクのおかげで、会場のスピーカーからは、トオルの小さな喘ぎはもちろん、緊張と脅えに荒くなってきた息遣いまでもが、はっきりと流れていた。
「では、抽選台に玉を投入いたします。ご覧の通り、今夜使用するビンゴ玉はパチンコ玉と同サイズとなっております。現時点では番号は振られておりません。
抽選台に投入される玉の数は自動でカウントされ、後ほど、投入された最大数までの数字がビンゴ玉に一つずつランダムに振られます。
同時に、お客様の手元のビンゴカードにも、玉の最大数までの数字が表示されます。
つまり、投入する玉の数が多ければ多い程ビンゴが出づらくなりますので、こちらのウサギに有利となります。
抽選は全部で五回。ビンゴが出なければウサギの勝ち、ビンゴが出れば一抜けのお客様が賞金とこちらのウサギを獲得されます」
最大数がどうのという話はよく理解できなかったが、トオルにとっては『バトラー』の最後の言葉が一番胸に刺さった。
薄々そうだろうなと思ってはいたが、やはりゲームで負けると身売りする羽目になるらしい。そのための浣腸であり、拡張だったのだろう。
覚悟はできているとはいえ、実際に耳にすればやはり心は重くなる。台に拘束されて尻を客席に晒しているのは、優勝商品の展示のためか。
なんて趣味が悪いのだろう。
だがまぁそういうショーだと言われれば致し方ない。金のためだ。とにかく、ゲームに勝てばいい話だ。
勝てば、尻の穴を見られたことくらい笑い話になる。
それにしても、『バトラー』がアナウンスした、『抽選台に投入された最大数』というのはどういうことだろうか。ビンゴなどしばらくやってはいないが、通常は1から99までの数字が振られているのではなかったか。
そんなトオルの疑問は、すぐに解決した。考えうる限り、いや、考えてもいなかった最悪の形で、ただちに。
「では、抽選台に仕掛けがないことをご確認ください」
アナウンスの直後、四つん這いで固定されたトオルの尻に、ぬるっとした硬いものが突き込まれた。
完全に無防備だったため、おそらく指二本分はあろうかというその硬く長細い物は、一気に深くまで入り込んでしまった。
「んひぃっ!」
情けない声を上げ、肘の力ががくりと抜けたトオルは、尻だけを高く掲げた状態で衝撃にぶるぶる震える。
何だこれ、入ってる、入ってる。
トオルがパニックに陥ったのも無理はない。何度も浣腸され、直前までバルーンで広げられていたとはいえ、くちばし状の金属で尻の穴を貫かれるのは初めての経験なのだ。しかも、目隠しのせいで、何を入れられているのか見当もつかない。
だがトオルが恐怖を自覚する間もなく、突き込まれた金属はギリギリとくちばしを開いていった。
「うぐううぅっ!」
唸りがトオルの口をつく。普段は閉じられている、意識もしていない場所の筋肉が、無理やりに押し広げられていくのだ。痛みや羞恥よりも、苦しさが遥かに勝る。
更にギリギリと押し広げられていき、腹の中にひゅっと冷たい外気が入って来た時には、トオルはパニックのあまり軽度の過呼吸を起こしていた。
「はっ、はくっ、はくっ、や、やだっ、やっ!」
拒否を表明するなと言われたことも忘れ、パニックに陥って暴れ喚く。だが、四肢を台の上に固定されていては碌に抵抗できない。
くちばし状の器具で抉じ開けられた内壁を、カメラがスクリーンに大写しにする。
晒されたトオルの腹の内側を、観客の男たちは「綺麗なピンク色だ」「若いねぇ」と口々に誉めそやした。そのざわめきが、更にトオルの不安を煽る。
「なに?なにが?」
まさか、自分の尻の内側が、この場にいる全員につぶさに観察されているなどとは思いもしない。
『バトラー』は更に、ペンライトでトオルのてらてらと光る肉壁を照らし、手ずから操ったカメラで奥の奥までをスクリーンに映し出した。
「この通り、中は完全に空洞です。……ではこちらに、ビンゴ玉を投入いたします」
まさか。
トオルの思考が一瞬停止した。引きつっていた表情が恐怖の形で固まる。
音と衝撃がトオルを襲ったのは同時だった。
じゃらじゃらと耳障りな音を立てて、外気に晒されたトオルの腹の中に、氷のように冷えた玉が無数に注ぎ込まれたのだ。
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