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ビンゴ大会(遊技場『キッチュ』開催) 8
「……71、72、と。もう入りませんか?沢山入れた方があなたにとっては有利になりますよ?」
ビンゴ玉の注入を再開してからしばらく経って、ようやく『バトラー』の声がかかった。
トオル自身には、もう数など把握できない。とっくに心も体も限界だった。
トオルの内壁はまるでビニール袋のように無理矢理広げられ、溢れないように注意深く玉を詰められ続けたのだ。スクリーンには、押し開かれた縁ギリギリまで銀の玉が詰まっている様子が映し出されている。
「も、むり、むり、だから……」
蚊の鳴くような声で上げた白旗を、カメラのマイクがしっかりと拾った。
「では、ここまででビンゴ玉の投入は終了といたします。クスコを抜きますから、ウサギさんはしっかりとお尻を閉じて、漏らさないようにしてください」
『バトラー』の言葉が終わるか否かの内に、窄まりを無理に押し広げていた金属のくちばしがゆっくりと抜かれた。
内壁を擦りながら出て行く異様な感触に、トオルは「あくぅっ!」と声を上げ、ぶるぶると震える。そのまま中の玉を全部出してしまいそうだった。
「出るっ!出ちまうっ!」
長時間押し開かれていたせいか、トオルの窄まりはじわじわとしか閉じていかない。
そうなることがわかっていたのか、『バトラー』は焦ることなく、白手袋に覆われた手でトオルの穴に蓋をした。
だが、それがかえってトオルの羞恥を煽った。
あの美しい身なりの『バトラー』に、手で押さえていてもらわないと漏らしてしまう。そんなみっともない自分を自覚させられるのだ。
真っ白な手袋を、玉が纏ったローションと腸の生み出す粘液で汚しながら、尻の穴が閉じるのを待ってもらっている。
それは、人前で尻に異物を入れられるよりも、遥かに身の置き所がない事実だった。
苦悩の時間に耐えた後、ようやく括約筋が収縮し、トオルの尻がかろうじて窄まりきる。
だが、その脆い門のすぐ裏にまで玉が迫っているのが、見た目にもわかった。菊は伸びきって歪に盛り上がり、今にも弾けそうだ。
「では皆様、ビンゴの数字は1から72までとなります。お手元の電子カードに数字が表示されますのでご確認ください」
ようやく抽選が始まるようだ。もう己の立場は十分に理解しているトオルではあったが、それでもこれから自分の身に起こることを想像すると、涙がとめどなく溢れてくる。
だって、抽選というからには、入れた玉を出さなくてはいけない。男の身でバニーの格好をして、四つん這いで拘束され、尻からビンゴ玉をひり出すのだ。惨めで、情けなくて、死にそうに恥ずかしい。
実際のところ、腹はぱんぱんで苦しくて、今すぐにでも全てを出してしまいたい。というか、腹に少しでも力を入れると玉を漏らしてしまいそうだ。
だがどうしても、自分から人前で出すなんて考えられなかった。
「頼みます、うう……出すのだけは……」
苦しさに耐えつつ、どうか情けをかけてくれと懇願する。だが、トオルが泣けば泣くほど、尻の背後から聞こえるざわめきが楽しげにうねった。観客は皆、トオルの醜態を心から楽しんでいるようだ。
「可哀想に、ウサギが泣いています。尻尾 が無いのが悲しいのでしょう。
おや?私のポケットの中に何やら……おお、これは!」
とぼけたような芝居がかった『バトラー』の声に、何を馬鹿なと言い返す気力もわかない。だが、客席から上がった愉快そうな笑い声に、良くないことが起こっているとだけは察せられた。
「せっかく尻尾が見つかりましたが、こんなにギリギリまで玉が詰まっていては入りませんね。少し中の玉を動かしましょう」
一体何をと、首を後ろに捻ろうとしたが果たせなかった。かろうじて閉じている場所に、つぷりと無遠慮に細い物が突き入れられた感触がしたのだ。
一瞬の後、トオルの会陰の裏側辺りがかっと燃えた。その鮮烈な熱は、溶岩流のようにビンゴ玉同士の隙間を這い、トオルの腹いっぱいに一瞬で広がる。
「うああああぁーっ!」
咆哮を上げ、伸び上がるように逃れようとするが、二人の屈強なアシスタントに左右からがっしりと押さえ込まれる。
灼熱の奔流は止まらない。確かな質量をもって、腹の中をなみなみと満たしていく。
『バトラー』がシリンジで注入する液体が、トオルの尻の中にいまだかつて知らない熱を生み出しているのだ。
「やだあああぁっ!入れるなぁぁっ!」
ぶじゅううぅぅっっと、気密空間に無理やり大量の粘液を押し込む音が会場中に響いた。トオルの腹がパンパンに膨れ上がる。腹の中に熱湯を注がれたと思った。
「あつ゛い゛ぃっ!やだあぁぁぁっ!」
アシスタントの男に押さえ込まれながらも、拘束された体をよじって逃れようとする。
殺されると思った。腹を内側から焼かれて、死んでしまうと。
本能で、腹から灼熱を排除しようといきむ。だが、出すより先に何か太いものが突き込まれ、びたんと出口を塞いでしまった。
「うぐううぅぅっ!熱いぃっ!焼ける!死ぬぅっ!」
トオルのあまりの狂乱に、さすがに客達もどよめき、場内は浮き足立った空気になる。だが、『バトラー』は何でもないことのように、空になった大型のシリンジを客席に向けて振ってみせた。
「ご心配なく、ただのローションです。少しばかり感度の上がる薬を混ぜた、ね。
素行の悪そうなウサギですが、存外薬物には耐性がないようです。この通り、中がうねるように動いて、玉が多少沈みましたので、尻尾をつけてやることができました。これで、ようやく抽選台の完成です」
『バトラー』が尻尾と呼んだ器具は、噴出を阻むためのストッパーだった。挿入された部分はシリコン製で、中に入るとくぱっと十字型に開いて栓となる。体外に出ている部分は、無駄に高品質なリアルファーだ。『バトラー』は丸くてふさふさしたその尻尾を軽く引っ張り、簡単には抜けないことを確認した。
「抽選の醍醐味といえば『ガラガラ』ですからね。皆様、シャンパンなどいかがですか?抽選台がひとりでに玉を撹拌する様を、ごゆるりとお楽しみくださいませ」
屈強なアシスタントに組み伏せられていた体をようやく解放されるころには、最初の焼き尽くされるような衝撃はいくらか収まっていた。だが、それに取って代わるように、痒みに似た猛烈な疼きが襲い掛かりつつあった。
その上、腹がパンパンになるまでローションで浣腸されている状態だ。いくら事前に全て出していても、腸の蠕動運動は止まらない。
「苦し……熱いぃ…取ってくれ、取って……」
疼きと排泄欲求に支配され、トオルはたまらず、唯一自由になる尻を前後左右に振り立てた。注入されたローションのせいで、もう一切空隙がないと思われた肉筒の中でも、緩慢ながらも玉が動く。小さな玉が内部でぶつかり合うたびに、ジャギジャギというくぐもった音をマイクが微かに拾った。
「あっ、ああっ、ああっ」
玉の動きが、中全体に広がる熱痒さを更に何倍にも増大させてしまう。火照った粘膜を、細かい玉の表面がぐりぐりと擦る。
中でも、ずっしりと腹に溜まった玉が、性器の裏側辺りを自重で圧迫するのがどうにもたまらない。トオルがこれまで経験したことのない、腰が抜けるような深い性感が無理やり目覚めさせられていく。
だが、緩慢に動く玉はトオルの思惑通りの位置には当たらない。
熱くて、痒くて、苦しくて。気持ちよくて、もどかしい。
「ああっ、ああんっ、あうぅっ、出させてっ、出させてぇぇっ!」
もはや、人前で出すということへの忌避感は影を潜めていた。
とにかく中の苦しいのを出したい。熱痒い中を擦って欲しい。重苦しい気持ちよさを生んでいる場所を、容赦なく押し潰されたい。
ウサギ耳カチューシャは、いつの間にかステージの床に落ちていた。トオルが惑乱の内に頭を激しく振ったせいだ。
手錠で台に拘束された手首と足首には、薄く血が滲んでいる。その痛みも感じないのか、四つん這いのウサギは、派手な嬌声と共に腰を激しく前後左右に振り立てた。
「あぁっ、やあっ、いきそ、いきそ……っ!」
性感が高まっているのか、見えない男根に揺さぶられるように尻をかくかくかくかくと動かす。
だが、それでは足りない。中の玉は僅かしか動かない。
「うあんっ、ああんっ、いかせてぇっ、出させてぇっ」
強請 っているのは、射精か排出かその両方か。破裂しそうな雄の肉茎は、薄いコスチュームの中でぶるんぶるんと揺れ、留まることを知らない先走りで生地の色を変える。
「さすがウサギ、精力の象徴だけあるな。もう何分尻を振ってる?」
「あの薬、売ってもらいたいものだ」
酒を片手にゆったりとトオルの痴態を楽しんでいた観客の声を拾い、『バトラー』が律義に答える。
「先ほど注入した薬は、下ル下ル商店街の薬局のオリジナル商品です。皆様にもご購入いただけますが、ご利用は商店街の中でだけ、ということでお願いいたします。
といっても、皆様が考えておられるような強い薬ではございません。こちらのウサギは、事前の丁寧な浣腸で括約筋周辺が十分に敏感になっていましたし、詰め込まれた玉と潤滑液で前立腺と排泄欲求を休みなく刺激されているために、これほど乱れているのです。もちろん、特に適性があったという事実は否定いたしませんが」
『バトラー』の言葉の通り、トオルは永遠かと思われるほどに続く絶頂寸前のもどかしさと、出したくても出せない排泄欲求に気が狂いそうになっていた。
いきたい、出したい。それだけが思考の全てを占め、ひぃんひぃんと泣きながら尻を振り続ける。
だが、狂乱はいつまでもは続かない。遂にトオルは体力の限界を迎え、倒れ込むように額から台に突っ伏した。
それでもなお尻をカクッカクッと緩やかに振るが、もう起き上がる力はないらしく、顔も上がらない。
『バトラー』の指示でアシスタントの一人がトオルの髪を掴み、無理矢理顔を上げさせるが、その目は焦点が合っていなかった。
「はひ……あひ……」
生意気ながらも美しかった顔は、涙と鼻水と涎でぐちゃぐちゃで見る影もない。意識も混濁しているのか、呂律の回らない舌でようやく、「だしゃ……へて……」と懇願する有様だった。
「どうやら、十分に抽選台が攪拌されたようです。さぁ皆様!それでは、いよいよ抽選に移ります!」
会場の音楽が止み、音量を抑えたドラムロールが鳴り始める。髪を鷲掴みにされてももはや痛みをほとんど感じていないトオルの頬を、『バトラー』が音高く二度三度と打ち据えた。
「うぐっ、ううっ」
「さぁウサギさん、ここからが本番ですよ。これから五回の抽選を行います。ドラムロールの最後のドン!という音と同時に尻尾を引き抜きますから、玉を一つ出してくださいね」
限界を超えた熱痒さと排泄欲求に苦しめられ続けたトオルには、それは解放を告げる福音のようですらあった。
ようやく、ようやく出せる。
『バトラー』に打たれた頬が、笑いの形に痙攣する。アシスタントの男はひっ掴んだ髪を離さない。ビンゴ玉をひり出す瞬間のトオルの顔を、スクリーンにしっかり映すためだ。
「皆様、ご注目ください。さて、最初の番号は!?」
ドラムロールが大きくなり、波のようにうねる。ドゥルルルルと続くやたらと長いスネアドラムの音の連続の中、トオルは解放の「ドン」だけを焦がれる想いで待った。
はやく、はやく、出したい、出したいぃッ!
ドラムロールが、途切れた。
『ドン!』
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