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ビンゴ大会(遊技場『キッチュ』開催) 9

『バトラー』の手で、トオルの尻から尻尾型の栓が思い切り引き抜かれた。 ブボォォッ! 「あああああっ!!!」 濁った派手な音を立て、大量のローションと共に無数の玉が噴き出す。内臓を尻から引っこ抜かれたかと思うほどの衝撃で、トオルの中から全てが迸り出て行く。 それは、鮮烈な開放感だった。頭が真っ白になるほどの快感だった。その究極の一瞬に、最後の一押しを与えられずにいた性器は歓喜に震え、大量の白濁液をバニーコスチュームの中に奔出させる。 気持ちよかった。今死んでもいいくらい、気持ちよかった。 だが、あれほどまでに夢見ていた解放であるにも関わらず、多幸感はほんの一瞬で圧倒的な羞恥にとって替わる。トオルの尻は一度の噴出では閉じきらず、腹の中のうねりによって、第二波第三波と、ぼとぼとと玉を垂れ流してしまっていたのだ。 「やだやだやだぁーっ!!!」 絶叫するトオルだが、漏出は止まらない。ステージの上にできたローション溜まりに、次々とビンゴ玉が落ちていく。 しかも、長く焦らされすぎた性器も箍が外れてしまったのか、ぶじゅ、ぶじゅと音を立てて白濁を間欠泉のように噴き出し続けた。 「()めて止めて止めて!」 このままでは全部出てしまうと、虚空に向けて泣き叫ぶ。それがビンゴ玉のことなのか、排泄を思わせる行為そのもののことなのか、もうわからない。もしかしたら、トオルの内にある、尊厳のようなものまでも流れ出してしまう恐怖だったかもしれない。 尻を窄めようにも、出してしまいたいという体の欲求が意思をはるかに凌駕している。泣き叫びながら玉とローションと精液を漏らし続けるトオルの姿は、人間としても抽選台としても欠陥品以外の何ものでもなかった。 その一方で、観客達からはやんややんやの大喝采が上がった。 「これは見事な大噴射だ。ハハッ、おもらしウサギが鼻水垂らして泣いてるぞ」 「傑作だ、粘膜がはみ出してるじゃないか。真っ赤に腫れて、ククッ」 「おお、ウサギの股間からザーメンがぼたぼた漏れてるぞ。尻からビンゴ玉漏らして射精するとは、いやぁ、若いもんは元気ですなぁ」 ステージ上のスクリーンには、てらてらと光る粘膜をめくれ上がらせて玉を漏らし続ける秘部も、アシスタントに無理矢理上げさせられたぐしゃぐしゃの泣き顔も、トオルの全てが余すことなく大写しにされている。 「見んなよぉっ……!見ないで……よぉ……っ!」という悲痛な叫びがスピーカーから響くが、それすらかき消されそうなほどの拍手と野次が巻き起こっていた。 「一度の抽選で複数の数字が出るとご案内しましたが、これは予想以上に多いですね。仕方がないので、飛距離が一番長かった玉から順に当選番号といたします」 『バトラー』の指示により、アシスタントの大男達がぬるつく小さな玉を集め、ステージ上に注意深く並べていく。 「31……52……13……」 『バトラー』が玉をひとつひとつ拾い上げ、ゆっくりと数字を読み上げる声は、途切れることなく続いた。 既に手遅れではあるが、それでもトオルは羞恥心から、今なお漏れ続ける玉をなんとか少しでも尻の中に留めようとする。 だが、長時間に渡る快楽と圧迫の苦しみの中で、トオルの尻は恥じらいも本来の機能も麻痺してしまったらしい。締まりの悪い蛇口から雫が落ちるように、尚もぽとり、ぽとりと玉が漏れ落ちていく。 「やだ……や……止めて……止めてぇ……」 もはや、『バトラー』の手でも尻尾ででもいいから、穴を塞いで欲しいとさえ思う。だが、ショーの進行を司る男が、抽選台の羞恥など省みてくれるはずもない。 「25……3……47………」 一定の調子で読まれる数字の合間に、「リーチ!」「私もだ!」といくつもの興奮した声が上がる。 トオルはそれを、どこか遠い世界の出来事のように聞いていた。 「あひ……ひ……出ちゃう……ぜんぶ、出ちゃう……」 もはや賞金のことも、自分が優勝商品になることも頭にはない。今この瞬間も漏らし続け、恥を晒し続けているということだけが、トオルの意識の全てだった。 排出は間遠くなっていたが、それでもまだ、トオルの穴はくぷん、くぷんと一粒ずつ漏らしている。その度に、戸惑うように窄まりが狭まる様子は、どこかいじらしくすらあった。 「……69……28」 『バトラー』の声で、抑揚なくその数字が読み上げられた時だった。 「ビンゴ!」 一人の男の朗々とした声が、熱気あふれるテント内に響き渡った。 あぁ、終わった……やっと、終わった……。 高らかにビンゴの声が響いた時、トオルの胸を満たしたのは安堵だった。その瞬間、非力なりにその勤めを果たそうと懸命に働いていた窄まりがぽこりと開き、残りのローションと玉が全てぼたぼたと流れ出す。 「ひあぁぁ……」 も、だめ……全部……出ちゃった……。 ぶぴっと醜い音を立て、ローションの残りを全て出し切った時には、でっぷりと太った勝者の男性がステージに上がり、『バトラー』から賞金を受け取っていた。 「こちらのウサギは本日お持ち帰りされますか?後日の配送も可能ですが」 これ見よがしにハイブランドのスーツに身を包んだ優勝者の中年男は、『バトラー』の言葉にやれやれと肩をすくめた。 「持ち帰りたいのはやまやまだが、仕事の関係で煩い記者どもに張り付かれていてね。飼育小屋の確保が難しいんだ。残念だが、そちらの店でいいように処分してくれたまえ」 ショーを楽しみ賞金も手に入れた男は名残惜しげに台を回り込み、いまだにアシスタントの男に髪を掴まれたままのトオルの顔を覗き込む。恥をかき尽くしたトオルの顔には、絶望が浮かんでいるか、それとも苦行を終えた安堵が広がっているかと思われた。 だがなんと、その眉根は切なげに寄り、口からは熱い息と涎を零しているではないか。 恐ろしいことに、切羽詰った排泄欲求が満たされた今、トオルの中にはあの、敏感になった肉壁を擦って欲しい、性器の裏の部分を思い切り押して欲しいという熱痒いもどかしさが再び甦っていたのだ。 ビンゴ玉による刺激を失った内壁が、物足りなさを訴える。既に腸壁から薬が吸収され切っているため、ローションが押し出されても効果が無くなりはしなかったのだ。 「あ、ああ、ああっ」 信じられない恥を晒したばかりだというのに、欲望を帯びて急激に燃え上がっていく体に、トオルの心が追いつかない。 「やだっ、なんで、なんでぇっ」 筋肉が強張ってもう動かせないと思っていた腰が、うねうねと粘るように揺れ始める。再び固さを得た肉茎が、コスチュームの股間に溜まった白濁をかき混ぜ、ぷちゅぷちゅと濡れた音を立てる。粘液にまみれた尻穴は、もう一度口いっぱい頬張らせてくれとでも言うかのように、綻んでひくひくと蠢いている。 トオルの体は既に、男を求め誘う淫らな肉塊へと変貌していた。 「これはすごいな」 熱っぽい溜息をついた勝者の男は、「汚れますよ」という『バトラー』の忠告も聞かず、ウィンナーのように太った指を三本一気にトオルの尻穴に突っ込んだ。 「あああんっ」 信じられないほど甘ったるい声がトオルの口から迸る。男は指をばらばらに動かして、弛んで蕩けきった肉壺の感触を味わった。やわやわと絡みつく濡れた熱い粘膜が、もっと擦ってくれ、もっと深くまで突っ込んでくれと雄弁に強請っている。 「ああっ、ああんっ、やだあぁ、おかしい、おかしいよぉっ」 自分自身の体で得ている快感が信じられず、トオルは指を咥え込んだ尻を嬉しげに振りながらも、顔を歪めて涙を流す。 心と体がバラバラになってしまったようだった。 「コレは、どう処分するのかね?まさか殺したりはしないだろうな?」 急に惜しくなったのか、トオルの中を指で楽しみながら、男が『バトラー』に問いかける。 「地上の元いた場所に放してもいいのですが、職も無い借金まみれのギャンブル狂ですから、ロクな死に方をしないでしょうね。かといって、当店では穀潰しのペットを飼えるような余裕はございません。第一、薬の効果により、もうアヌスへの快感無しには生きていけなくなっていますから、飼育に手間がかかりすぎます」 トオルに使用した媚薬は、それ自体には常習性もなく、健康への被害もない優秀な薬だ。だが、使用中に受けた刺激を快感だと認識させ、さらにその快感を脳と肉体に強力に刷り込むという特色があった。しかも、刷り込まれた快感には強い常習性があり、その快感無しでは一日たりとも過ごせなくなるという。下ル下ル商店街で薬局を営む、ろくでもないはぐれ薬剤師の自信作だ。 つまり、長時間に渡って尻の中をパンパンにされ、玉で内壁を擦られ続けたトオルは、もう尻の中を満たされ擦られる快感無しでは生きていけない体になってしまったのだ。射精に関しては、おそらく尻からの噴出無しでは果たせなくなっただろう。 自ら身を落とした人間からは、命以外は何でも奪い、その心も体も生活も全てを改変してしまう。それが下ル下ル商店街のやり方だった。 言外に、このままだとトオルはのたれ死にだと仄めかした『バトラー』の言葉に、勝者の男はううむと考え込む。面倒をみる気は無いが、見殺しにするのも後味が悪い。地上の多くの人間がもつのと同様のエゴだ。 「客を取らせてはどうだ?尻も満足させてやれるし、飼育費用も手に入るだろう?」 名案だとばかりに男が手の平を打つ。だが『バトラー』は冷たい声で言下に否定した。 「当店では男娼の斡旋はいたしておりませんし、この町には尻を犯されたいだけのウサギを雇ってくれる男娼館などございません」 切り捨てる物言いに多少怯みつつ、勝者の男は「だがなぁ」と手慰みにトオルの肉壺を探る。 そのトオルはというと、自分の処遇が話し合われているというのに、媚肉のじれったさに悶えるばかりで碌に話を聞いていない。もっといっぱいになるまで入れて、もっと激しく擦ってと、口に出さずにいるので精一杯だ。男の指を尻で貪り、泣きながら喘いでいる。 そんなトオルに勝者の男が未練たらたらなのは明らかだった。 だから『バトラー』はタイミングを見計らい、声の表情を和ませて、さも今思いついたかのように提案した。 「あぁ、そういえば、広場に当店の看板を立てたいと考えていたんでした。『キッチュ』の名にふさわしい看板です。お客様が投資してくださるというのなら、この子は当店の看板ウサギとして雇用しましょう」 「広告費が必要なのか?それくらいならわけもない」 すぐにでも財布を取り出そうとする男の手に、『バトラー』は白手袋に包まれた大きな手を重ね、意味深に押し留めた。 「いいえ、広告費ではございません。製作費、です」 『バトラー』は唇に薄く笑みを刷き、男の耳元にトオルを幸せにする呪文を囁いた。 「――ですよ」

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