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エピローグ 下ル下ル商店街新名物 ウサギの壁尻看板 2/2
「あぁ、そろそろ休憩時間ですね。元ギャンブル狂の幸せそうな顔、どうぞあなたも近くで見てやってください」
懐中時計を確認した『バトラー』は穏やかにそう言うと、チュンを連れて一生懸命客をひいているウサギ看板へと歩み寄った。
その姿を目ざとく見つけ、ウサギの顔がぱぁっと輝く。
「休憩だ!やったぁ!」
子供のように無邪気に喜びを露 わにし、嬉しくて仕方がない様子で、手錠をかけられた手を『バトラー』に向けてあらん限りに伸ばしている。
「ご苦労様」
アタッシュケースをウサギの手の届く位置に持ち上げてやると、嬉しげにそれを撫で回し、「早く、早く下さい」とせがんだ。
『バトラー』は目立たない位置にある小さな鍵穴に鍵を差し込み、カチリと回す。すると、コインを入れることなく、壁が反転を始めた。
「あぁ、早く早くはやく……」
ウサギの声が遠くなり、下半身が現れて回転が止まると、もう声は完全に聞こえなくなる。
だが、言葉以上の饒舌さで、濡れた秘肛がひくんひくんと刺激を求めている。
近くで見ると、そこからは大量の白濁がとろとろと漏れていた。先ほどの中年男は途中になってしまったようだが、既に誰かに種付けされていたようだ。もしくはあの中年男が本日数回目のトライだったのか。
しかし、バニーコスチュームの中で固く張り詰めた勃起には、射精の名残は見られない。可哀想に、今日も尻を好き放題に犯されながら、一度も極められていないのだ。
『バトラー』は随分弛んでいる濡れた窄まりへ、アタッシュケースから取り出したゴルフボールを次々と詰め込み始めた。
当初はビンゴ玉を詰めていたのだが、拡張が進んだことで必要な玉数も多くなったし、小さな玉を詰めるのは手間がかかる。ビンゴ玉の数倍の大きさであるゴルフボールなら個数が少なくてすむ上、ゴツゴツした表面が程よく刺激にもなるため、一石二鳥なのだ。
ウサギの蕩けた尻穴は、直径四センチを超えるゴルフボールを、かぷんかぷんと楽に飲み込んでいく。壁に阻まれ、ウサギの声は聞こえて来ないが、きっと「ああっ、入ってきた、入ってきたぁ」と悦んでいることだろう。
さっさと済ませようというかのように、『バトラー』は機械的にボールを詰め込み続けた。
そしてようやく窄まりのぎりぎりまで詰め終えると、アタッシュケースから液体の入ったシリンジを取り出す。
ゲームで使ったあの媚薬入りのローションだ。
もちろん、肛虐と排出の快感はもうすっかり刷り込まれているので、ウサギにわざわざこの薬を使う必要はない。使用目的は別にあった。
呼吸に合わせてゴルフボールが見え隠れする窄まりに、大型のシリンジの先端を捻じ込み、躊躇無く全量を注入する。
その様を、いつのまにか近くに寄ってきていた観光客たちが、怖いもの見たさといった様子で見つめていた。
『バトラー』は誰にともなく説明する。
「今浣腸したのは、少々気持ちよくなる薬の入ったローションです。薬自体に依存性はありませんのでご心配なく。ですが、この薬を使用した状態で得た刺激は、快感として脳と体に刻み込まれ、もうそれなしでは生きていけなくなります。こちらのウサギには、ほぼ毎日このようにボールを詰めて薬を浣腸していますので、もう何かをひり出しながらでなくては射精できません。今頃はきっと、射精直前の快感に悶えていることでしょう」
淡々と事実を述べる『バトラー』の言葉に、観光客達が息を飲む。そんなまさか、という空気が流れる中、それ以上の説明はせず、『バトラー』は再度鍵を使って、さっさと壁を反転させてしまった。
ゴルフボールを詰められ媚薬入りローションを浣腸され、ぶるぶると震える尻が壁の向こうに飲み込まれる。
代わりに、再びウサギの顔が広場に現れた。
「だめだめ出ちゃう!熱いよぉ、痒いよぉ、あぁ……!イ、イイよぉ、出ちゃうよぉ……」
酷く気持ち良さそうな声が、『バトラー』の説明を雄弁に肯定していた。眉根を寄せ、震える唇から涎を垂らし、堪らないといった様子で首を左右に振っている。
ウエストを壁にがっしりと挟まれ、足首を鉄環で固定されているせいで、腰を振りたくても振れない。つまり、勃起を壁に擦り付けることもできないので、純粋に尻の穴からしか刺激を得られていないはずだ。
ゴルフボールを詰められ、ローション浣腸を施された、尻穴からしか。
だというのにウサギは、「あぁ、も、出そぉ、きもちい、きもちいぃ」と快感を訴えていた。
「五分お待ちなさい。勝手に漏らしたら三日間貞操帯ですよ」
『バトラー』の言葉はもはや恒例となった脅しだが、ウサギはひぃと悲鳴を上げ、「はい……はい……」と必死に頷く。
以前罰として与えた強制的な禁欲が、余程骨身に沁みたのだろう。顔を真っ赤にし、必死に堪えている。
だが、ただでさえ腹がパンパンになる量のボールと浣腸だ。普通の人間でも苦しさに耐え切れず、すぐに出してしまうだろう。
それが、排出の快感を嫌というほど刷り込まれた身に、熱痒くなる媚薬入りとあれば、栓も無しにただ耐えるというのは拷問でしかなかった。
「ぅく……うぅ……出したい……出したいよぉ……」
手錠をかけられた不自由な手が、時に自らの頭を抱え、時に助けを求めるように野次馬に伸ばされる。ウサギは頭を打ち振るい、涙を流して窮状を訴えた。
「苦しい……熱いぃ……出ちゃう……出ちゃうよぉ……助けて……」
一見、非道な苦痛を強いられているかのように見えるウサギの様子に、遠巻きにしていた見物客の一部が同情した様子で顔をしかめる。
だが、近づいて『バトラー』とのやりとりを聞けば、誰しもが杞憂だと知るのだ。
「それじゃあまるで私が苛めているみたいでしょう。すぐにひり出すのでは射精できないとお前が泣くから、わざわざ時間を割いて待ってやっているというのに」
「ご……めん、なさ……」
「ほら、顔を上げて。お客様にきちんと自分で説明なさい」
「う……あ……か、看板、きゅうけぇ、だから、しゃせぇ、させて、もらえ……あうぅ……うれし、です……うれし……あぁ、出る、出るぅっ……」
我慢ができなくなったのか、壁にしがみ付くような格好でぶるぶると震え、ウサギはそれきり黙ってしまう。
だが『バトラー』が一言
「顔は?」
と問えば、びくりと上半身を波打たせて顔を上げた。
開きっぱなしの口からは浅い呼吸と共に涎が垂れ、極まる寸前なのか、両の黒目がゆっくりと上に上がっていく。
「あひ……ひぃ……見ないで、出る、いく、いく、いく……むり、ごめ、なさ、も、むり……ゆるし、て……」
命令通りに野次馬に顔を晒したウサギは、掠れた小さな声で限界を訴えながら、震える手で『バトラー』に縋った。だが、その手は当然『バトラー』には届かず、空しく空を掻く。
「あと三十秒です。店の看板なのですから、礼儀正しくお客様に挨拶してからいきなさい」
無情な『バトラー』の言葉に、ウサギはまるで吐息のような小さな声で、「は……い……」と返事をした。
そして看板らしく、震える唇で精一杯笑みを形作る。頬をひくひくと痙攣させ、涙と涎を垂らしながらも、ウサギは与えられた職務を全うした。
「し、紳士のための遊技場『キッチュ』、皆様のご来店を、お、お待ちしております。……っいくいくいくいく、出るぅっ!あぁ!出るぅっ!」
野次馬たちは固唾を呑んで見守った。彼らの目も耳も、ウサギの痴態に釘付けだった。
だから、『バトラー』の表情の変化に気付いた者はいなかっただろう。いや、偶然見ていても、それが何を意味するのか誰もわからなかったに違いない。
何しろこの場には、片眼鏡越しに目尻をほんの少し下げたその表情が、『バトラー』の心からの笑みだと知る者はいないのだから。
「いい子だ。いきなさい」
瞬間、広場を甲高い叫声が満たした。それは恍惚の咆哮だった。
「あああぁぁぁぁぁーっ!!!!うあぁっ!ああぁっ!ああぁんっ!あぁんっ!出てるぅっ!やあぁっ!出てるぅぅーっ!」
目を見開き、あらん限りの声を上げ、ウサギは全身全霊で絶頂していた。壁の向こう側で、ゴルフボールと大量のローションを尻穴から噴き出し、誰にも省みてもらえない性器から、熟成された欲望の粘液を迸らせている。
上半身しか見えなくても、それは誰の目にも明らかだった。それほど、見事なイキ様だった。
「おぉ……これは……」と、思わずといった呟きが広場に漏れ広がる。男も女も息をのみ、無意識に腰をもじつかせ始めた。
「あぁんっ!あぁっ、いってるぅ、まだ出てるぅっ!」
ビンゴゲームの時がそうだったように、一度目の大噴出の後も、続けてボールをぼとぼととひり出しているのだろう。ゴルフボールは一つ一つが大きい分、肉壁を擦る衝撃も、出る度にくぱくぱと開閉するのも堪らないに違いない。
「きもち、きもちいぃ、あぁん、あー」
脳まで蕩けてしまったようなだらしない顔をして、ウサギがびくんびくんと体を跳ねさせる。
その様があまりにも幸せそうで、チュンはしゃがみこんで声をかけた。
「よっお兄さん、ゲームには負けちまったようだが、どうだ?まだギャンブルやりたいか?」
いまだに恍惚の波を揺蕩っているウサギは、チュンの顔を思い出せないらしい。ふにゃりと笑い、軽く首を傾げた。
「んー?んーん。もぉぎゃんぶりゅはいいよぉ。俺、働くの、だーい好きらからぁ」
その勤勉な言葉に、チュンはそうかそうかとニカッと笑う。
一人のどうしようもないギャンブル狂を更生させたのだ。この地下商店街では空は見えないが、まるで青空に放り出されたかのような清々しい気分だった。
その様をうんうんと感慨深げに見守っていた『バトラー』は、労働好きなウサギをもっと悦ばせてやろうと、野次馬へと高らかに声を上げる。
「これで、しばらくの間は何をやってもイキ続けます。イく度に痙攣しながら締め付けるウサギ穴、破格の五百円です。どうぞ遊技場『キッチュ』の一端をお楽しみください」
幾人もの男が、人目を気にする余裕もなく、ポケットや鞄を探る。
運よく一番初めに五百円玉を見つけた男が、はっきりと形を変えた股間を宥めるように握り締めながら、看板へと近づいてきた。
「ら、らめ、まだいってりゅ、いってりゅからぁっ」
ウサギは呂律の回らない口で抗議するが、その声には隠し切れない媚がある。客が五百円玉を投入すると、「あぁ、ありがとぉ、早く、早くぅっ」と舌を突き出しながら、壁の向こうに消えていった。
代わりに現れたのは、かろうじて窄まってはいるものの、呼吸と共にとろとろとローションを漏らす緩みきった下半身だ。
「どうぞ。この通り十分に濡れていますから」
『バトラー』が優雅に手の平で指し示す動きに操られるように、客がぎこちなくズボンと下着を下ろす。
そして、既に先走りを漏らし始めた性器を、吸い込まれるように嵌め込んでいった。
『得た刺激が快感として脳と体に刻み込まれ、その快感なしでは生きていけなくなる』媚薬入りローションで満たされた、アリジゴクの蜜穴へと。
自ら身を落とした人間からは、命以外は何でも奪い、その心も体も生活も全てを改変してしまう。
それが下ル下ル商店街のやり方なのだ。
《完》
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