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第1話 お揃いの靴。

俺達三人は、ガキの頃から何をするにも何処へ行くのにもいつも一緒だった。 小五の時、ちゅん太がインフルエンザに掛かってしまい一週間家から出られなかった。 本当の名前は早川淳太(はやかわじゅんた)だけど、俺たちはちゅん太って呼んでる。あだ名だから特に意味はないんだけど。 残された俺らはクラスメイト達と校庭で遊ぶ事にした。 「隠れんぼしようぜ!」 「うんっ!」 「良いね!」 「「最初はグー!ジャンケンポンッ!」」 「ちぇっ、俺が鬼かぁ。数えるぞ〜!」 鬼が目を瞑り数を数え始めると、皆が散り散りに逃げる。 「い~ちっ、に~ぃっ、さ〜んっ…」 何処に隠れよう。 めぼしい場所は埋まってしまい、仕方なく皆と少し離れた場所へと向かった。 「も~い~かいっ?」 「「も~い~よっ!!」」 鬼が探しに来る。早く隠れなきゃ! きょろきょろと辺りを見回すと隠れるのに打って付けの場所を見つけた。校舎の裏に在る体育倉庫だ。 目を凝らして見ると体育倉庫の鍵が壊れており、子ども一人通れそうな程開いている。 倉庫へ駆け寄り中を覗き込む。カビたウレタンマットのじめついた匂いが鼻腔を掠め、思わず顔を顰めた。 倉庫内へ足を踏み入れ扉の内側にしゃがみ込むと、ラインカーから漏れた石灰の粉が買って貰ったばかりの靴に付いてしまった。ライン引きにパステルカラーのパウダーを使用している学校も有ったが、俺達の小学校では白色のみ。 『同じ白色だし…目立たないよな。』 言い訳じみた言葉で自分で自分を納得させた。 「~君みっけ!~ちゃんもみ〜つけた!」 鬼が皆の名前を次々と呼ぶ中、いつ自分が見つけられてしまうのかドキドキしながら息を潜める。 けれど、胸の高鳴りは杞憂に終わりやがて悲しみへと変化した。 「あっ!もうこんな時間だ!」 「ホントだ!帰らなきゃ。」 「じゃあ、又明日ね~。」 「「バイバ~イ」」 校庭から皆の声が聞こえる。誰も見つけてくれないまま隠れんぼは終わってしまった。 陽の光が陰り、暫くすると辺りは暗闇と静寂に包まれた。 俺はまだ此処にいるのに… 存在を忘れ去られた自分が情けなくて涙が出た。寂しくて悲しくて膝を抱え俯く事しか出来ない自分が情けないと分かっていてもどうする事も出来ない。 「大君、み〜つっけた!!」 弾んだ声と共に体育倉庫の扉がガタガタと大きな音を立てた。 開かれた扉から月明かりが差し込み、倉庫内を照らす。 涙でぐしゃぐしゃになった顔を上へ向けると、幼馴染みの白石陸斗(しらいしりくと)が立っていた。 校庭をぐるりと囲うイチョウ並木。美しく照り輝く葉が紅に染まる季節に、額から汗を流し息を切らせている彼の姿はなんと不釣り合いなのだろう。 足が痺れて立てずにいた俺に気付き、彼が扉の内側に足を踏み入れる。途端に石灰が舞い、同じ日に購入した色違いの黒い靴が白くなった。 『ごめんな。』 「何が?」 『俺の所為で新しい靴が…』 「ふふっ。色もお揃いになったね。」 『りっちゃん…』 楽しそうに笑う君に見惚れた。 「一緒に帰ろっ!」 『うんっ!』 差し伸べられた手を繋いだまま帰る道すがら、彼の横顔をちらりと盗み見る。 家に帰った後も胸の高鳴りは治らなかった。 隠れんぼの言い出しっぺは誰だったのか。 鬼をしていたのは… 忘れてしまった。 けれど、君の屈託の無い笑顔と汗で湿った手のぬくもりだけは、今でも鮮明に覚えている。

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