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幼なじみの陽翔(はると)は、忘れもの常習犯だった。
宿題にはじまり、筆記用具、体操着、上履き、遠足の日にはお弁当(!)
家から忘れてくるのはもちろん、学校帰りに寄った公園や塾、塾に行くバスの中、バス停、コンビニ、何気なく座ったベンチ……。さまざまな場所で、さまざまなものを忘れて帰った。
「陽翔と家、近いよね」と言われると断れず、それらを届けてやるのはいつも蓮(れん)の役割だった。
あるとき陽翔は、学校からランドセル(!)を忘れて帰った。
背中に自分の、お腹に陽翔のランドセルを抱えながらの帰り道は、恥ずかしくてしようがなかった。罰ゲームさせられているとか、いじめられているとか思われたらどうしよう。陽翔のランドセルのフタにでかでかと『これは相田陽翔の忘れものです』と書いてやりたくなった。
何度かガードレールに腰かけて休憩を取り、陽翔のランドセルを抱え直した。たった三年でべこべこの、傷まみれになったランドセル。蓮のものと並べて見たら、とても同学年のものには見えなかった。
大変な思いをしながら運んでやったにもかかわらず陽翔は、感謝するどころか「えー、せっかく宿題サボれる言い訳ができたと思ったのに」なんてぶうたれた。何だこいつと怒りが沸点に達しそうな直前で、陽翔の母親が彼にげんこつを食らわせた。母親は、「ごめんね、蓮くん、陽翔を見捨てないでやってね。お友達でいてやってね」と言うと、陽翔の頭をわしっとつかんで、押さえ込んだ。
きれいな渦を巻いている頭頂部。
何故か、見てはいけないものを見てしまったときのように、どきどきした。
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