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でも言ったところで、「何それ? お前の傘持ち要員になれってこと?」……とか思いそうだったから、諦めた。抽象的なことを言っても、きっと陽翔には通じない。
言葉にしなかったけれど、まるで返事をくれるみたいに、陽翔が爆ぜた。
「蓮……イ、く……つーか、イった……」
「事後報告かよ」
どくんどくんと脈打つ鼓動ひとつひとつが、分かった、と、言ってくれているようだった。
「蓮は……」
「イってない。イきたい」
尻から零れた陽翔の精液が、尾てい骨を伝って背中まで濡らした瞬間、陽翔の手の中でイった。イってしばらく、本当は、ずっとそのまま、じっと、包み込んでいてほしかった。けれど陽翔はそわそわと落ち着きなく、指を動かしたり力を入れて握り込んだりしてくるから、「もうやめろ」と払いのけた。
呼吸が落ち着くにつれ、それまでミュートされていた音量がまた元に戻されるみたいに、ざあざあと降り注ぐ雨の音が大きく聞こえる。
こいつがいなかったら、たいていのひとと同じにきっと、雨は鬱陶しいと思っていただろうし、湿気で不快なこの季節なんて、早く通り過ぎてほしいと思っていたに違いない。
ぺたぺたと貼りつく感触を楽しむみたいに、陽翔の頬を撫でた。
瞼の裏に、大きな傘の残像。
思い出す。
それを誇らしそうに差して、前を歩いている陽翔の後ろをついていくのは嫌いだった。
陽翔の姿が見えなくなるから。どれだけ後ろから声をかけても、弾かれて落ちていく水滴のように、蓮の言葉が弾かれてしまうような気がしたから。
けれど陽翔がくるりと振り向いて、傘の中に入れてくれた瞬間。
そこは誰にも譲りたくない場所になった。
イったあとは本当は、両手両脚を放り出して、だらんと寝そべってしまいたい。
でも陽翔にぎゅうっ、としがみついて、限界まで縮こまった。ワケが分からなかっただろうけど陽翔は何も訊かず、そのままにしておいてくれた。こんなワケが分からなくて面倒くさい自分を受け入れて、何でもないと笑って許してくれるのはきっと、こいつしかいない。
皆よりひとまわり。蓮よりふたまわりは大きかった傘と、優しさ。
そこに収まりきらなかった、愛おしさ。
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