12 / 12

12

 でも言ったところで、「何それ? お前の傘持ち要員になれってこと?」……とか思いそうだったから、諦めた。抽象的なことを言っても、きっと陽翔には通じない。  言葉にしなかったけれど、まるで返事をくれるみたいに、陽翔が爆ぜた。 「蓮……イ、く……つーか、イった……」 「事後報告かよ」  どくんどくんと脈打つ鼓動ひとつひとつが、分かった、と、言ってくれているようだった。 「蓮は……」 「イってない。イきたい」  尻から零れた陽翔の精液が、尾てい骨を伝って背中まで濡らした瞬間、陽翔の手の中でイった。イってしばらく、本当は、ずっとそのまま、じっと、包み込んでいてほしかった。けれど陽翔はそわそわと落ち着きなく、指を動かしたり力を入れて握り込んだりしてくるから、「もうやめろ」と払いのけた。  呼吸が落ち着くにつれ、それまでミュートされていた音量がまた元に戻されるみたいに、ざあざあと降り注ぐ雨の音が大きく聞こえる。  こいつがいなかったら、たいていのひとと同じにきっと、雨は鬱陶しいと思っていただろうし、湿気で不快なこの季節なんて、早く通り過ぎてほしいと思っていたに違いない。  ぺたぺたと貼りつく感触を楽しむみたいに、陽翔の頬を撫でた。  瞼の裏に、大きな傘の残像。  思い出す。  それを誇らしそうに差して、前を歩いている陽翔の後ろをついていくのは嫌いだった。  陽翔の姿が見えなくなるから。どれだけ後ろから声をかけても、弾かれて落ちていく水滴のように、蓮の言葉が弾かれてしまうような気がしたから。  けれど陽翔がくるりと振り向いて、傘の中に入れてくれた瞬間。  そこは誰にも譲りたくない場所になった。  イったあとは本当は、両手両脚を放り出して、だらんと寝そべってしまいたい。  でも陽翔にぎゅうっ、としがみついて、限界まで縮こまった。ワケが分からなかっただろうけど陽翔は何も訊かず、そのままにしておいてくれた。こんなワケが分からなくて面倒くさい自分を受け入れて、何でもないと笑って許してくれるのはきっと、こいつしかいない。  皆よりひとまわり。蓮よりふたまわりは大きかった傘と、優しさ。  そこに収まりきらなかった、愛おしさ。

ともだちにシェアしよう!