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 入れて、と、言ったつもりだったけど、声になっていなかった。けれど絶妙なタイミングで、陽翔はナカに入ってきた。 「……ふふっ」 「何だよ」 「別に」  腹も、腕も、頬も、ひんやりと冷たい。なのにナカだけは異様に熱くて、そのギャップがおかしくて笑ってしまった。腰を密着させて足を宙に投げ出すと、足首から先が雨に濡れた。その瞬間、立てかけていたビニール傘がパタン、と倒れた。  蓮が余裕ぶっているのが癪に障ったのか、陽翔は腰の動きを速めてきた。けれどお互い肌が湿っているせいで、ぶつかる音がぺったんぺったん、ねっちゃねっちゃ、と、卑猥というよりマヌケで、それがツボに入ってまた笑ってしまった。にやけた口を封じるようにくちづけられる。同時に前もこすられると流石に余裕がなくなって、「んんっ」と高い声を漏らしてしまった。雨音は激しくなったのに、それでもやっぱり、聞こえてほしくない音だけは大きく響いているようだった。自分だけ喘ぐのが悔しくなって、ぎゅっと後ろに力を入れると、声は漏れなかったけれど噛みしめた唇の隙間から、スーッと息が漏れるのが分かった。  さらに倒れ込むように覆い被さられ、視界が陽翔でいっぱいになる。  唐突に、あの傘の中に入って、仰向けに寝っ転がったときのことを思い出した。あの傘は、表は黒の無地だったけれど、裏地はネイビー、スカイブルー、白などの色が混じった縞模様で、飽きずにずっと、まるでプラネタリウムで宙を見上げるように眺めていられた。  今、身長は、陽翔はおそらく、180cm近くある。蓮も175……はいかないけれど、3か4。そんな自分たちがしていることはもう、直径128センチメートルでは隠せない。けれど今は、陽翔が傘だ。  陽翔が、蓮にとっての、傘。  ずっとこうしていたい。ずっとしていられないのならせめて、何回でもこういうことがしたい。 「あっ……はる……っ……はると……」 「ん……何だよ」 「な……んでもない」 「はあ?」 「呼んだ、だけ……」 「何だよ呼んだだけ、って……」 「いいだろ別に意味なんかない……し……。つーかそこで『何だ』とか聞いてくんなよ。セックス中に名前を呼ぶ意味なんてほとんどないんだから。お前も俺の名前呼んどきゃいいんだよ」  言っておきながら、まさか呼んだりしないだろうと思っていた。だから耳元で囁かれた瞬間、それだけで身体に収められる快感の量が、一気にぐんと満タン近くまでになってしまった。傘についた雫を振り落とすときのように、つま先に溜まっていた雨粒が散った。  本当は名前を呼んだあと、こう、続けたかった。  陽翔、ずっと俺の、傘になって。

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