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1-3 低空飛行の恋愛運
「うぅ、ごめんねぇ。
全部任せてしまってぇ」
半日経ってもグズグズの僕を確認し、青嵐君は苦笑い。
朝早くから野菜の収穫に値付けまでしてくれているベテラン学生バイト、って思ってたんだけど。
「いやいや、まぁ、原因が由良だし。
なんていうか、由良が番持ちΩだって皆知ってたからさ。
わざわざ柳原さんに言ってなかったこっちも悪いし」
どうやら少しは落ち着いたらしいと中へ入ってきた青嵐君。
僕の失恋したあの人、由良さんの子どもだっていうのも今日知りました。
全然似てないし、気づかなかったよ。
青嵐君は、手に持った氷水の入ったコップを僕の前に置いてくれる。
「なんか飲んだほうがいいよ?
目、溶けそうじゃん」
スルッと自然な動作で頬をくすぐる指先。
にっこりと狐目を細めて微笑まれ、うっかり気持ちが揺れそうになる。
うぅ、天然でタラしてくるαって怖い。
「ありがとう」
折角だから口をつけようと手にしたけど、思ったより喉が渇いていたみたい。
ゴクゴク一気に飲み干してしまった。
その間、青嵐君は隣の椅子に腰掛けて黙って待ってくれている。
急かしたりしないし、言葉もかけないんだけど、一人の時よりほっと息を抜ける。
そうなんだよね。
『ゆらファーム』のαって本当に優しいんだよね。
僕は、由良さんのことに夢中で、ほかのαをそういう目では見てなかったけど、青嵐君もその兄弟だって教えられたほかの学生アルバイト、直接働いてないけど関係者って紹介された人も含めて皆優しい。
前職場では、ヒートの時は抑制剤を使って出勤するのが当たり前だったからね。
ここでもそのつもりでシフト通りに入ったら、青嵐君の弟の凪君に何故か気づかれて帰宅するよう言われたんだよね。
しかも、まだ入って一ヶ月なのに『ヒート休暇』っていう有給休暇とは別枠の休業補償がついた休暇も使わせてくれたり。
今思えば、一番偉い由良さんがΩだからこんなに手厚いΩ対象の制度があるのかな?
「柳原さん、辞めないでよ?」
「ふぇ?!
や、辞めないよ!」
そこまで考えてなかったから、ビックリして変な声出たよ。
そりゃ、顔は合わせづらいけど。
前職で覚えた花の知識も行かせて、こんなに働きやすい職場を知ってしまったらほかに行けないよ。
「そ?
良かった」
安心したと微笑まれ、ドキッと胸が高鳴る。
あ、改めて青嵐君を見ると、緊張しちゃうな。
すらりと伸びた足、長すぎない??
いつもふざけて笑わせてくれるのに、そんなまじめな表情とかされたらギャップ萌えしちゃうよ??
あぅあぅ、いくら惚れっぽくても、失恋したその日に息子さんとかダメだよ!
自制、自制!!
「もう戸締りも済んでるし、着替えたら従業員出入り口に来てね。
今日の送迎は俺だから」
ポンポンと、頭を優しく触れられての年下扱い。
いやいや、僕の方が年上だからね!
まだ、高校三年生だよね??
青嵐君は、空のコップを回収してそのまま部屋を出て行ったけど。
いや、もう、本当に無自覚でタラシテこないで!!
失恋したてで弱ってるんだから!!
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