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第1話

「なんで俺をΩになんて産んだんだよっ!!」 -忘れもしない、高1のクリスマスイブ。 普段の明るい両親からは想像も出来ないくらい 重々しい雰囲気を漂わせながら言われた事。 それは…俺がΩだと言う事だった。 両親ともβだったしまさか自分がΩだなんて 考えた事も無かった俺には受け入れ難い事実で ぐちゃぐちゃの頭のまま 最初に両親に言った言葉がコレだった。 俺の言葉を聞いた瞬間、母親が泣き崩れた。 「ご、ごめんね…っ …βに産んであげられなくてっ…」 そう言って泣く母親と 苦い顔をして母親の背中をさする父親を見ても 俺は少しも謝る気にはなれず 更に追い打ちをかけるように 「泣いて謝られたって 俺がβになるわけでもないんだし そんなに悪いと思ってるんなら なんで俺をΩになんか産んだんだよ…っ」 と母親に言った俺は最低だ。 でもその時はそんな普通の判断が 出来ないくらい動揺していたのだ。 だってこの世は βに産まれれば…一生普通の暮らしが。 αに産まれれば…一生裕福な暮らしが。 Ωに産まれれば…一生人間以下の暮らしが 待っているんだから。 裕福に暮らせなくたっていいから 普通の暮らしが欲しかった。 普通に学生時代を過ごして。 普通に仕事に就けて。 普通に恋愛して。 普通に結婚して。 普通に家庭を持って。 そんな何処にでもあるような 普通の暮らしがしたかっただけなのに… なんで、俺だけ… ただその事ばかりが頭を独占していて 周りが全く見えなくなっていた。 そして… 散々、両親に暴言を吐き続けた後 俺は家を飛び出した。 それを追ってきた両親が ぐちゃっと嫌な音とともに 車の下敷きになったのを目の前で見たのは 俺がΩだと告げられて3時間後の事だった。 俺が両親に謝る事なく2人は 俺の手の届かない場所へ行ってしまった。 …その日を境に俺の生活は一変した。 幸いにも周りにはΩだとはバレずに済んだが いつもバカやってた友人がよそよそしくなり 教師も近所の人もみんな俺に対して 腫れ物を扱うような接し方になった。 そして役に立たない俺の代わりに 親戚がお通夜やら葬式やらをしてくれた。 俺は葬式が終わったその日の夜に 家にあった1番大きなスーツケースに 荷物を詰めれるだけ詰め込み 1番大きなリュックには金目のものを入れ、 俺は1人でその街を出た。 誰も俺の事を知らない場所に行くために。 …それが今から5年前の話。

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