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《9》
「な…、何で…、キス……?」
驚きすぎて、声が裏返る。
「睨んだ顔も可愛いと思って…」
「は、はぁ!?…ちょっ、な、なに…!?りょ、良次…!?」
吐息混じりに囁いた良次の声が、鼓膜に張り付いている。
バクバクと早鐘を打つ心臓が、痛い。
訳が分からないまま、気づけばソファーの上に座らされ、肩を押されて横たえられる。
睨んで、喧嘩をふっかけられた事は数え切れない程あるけれど、可愛いと言われてキスされた挙げ句、組み敷かれた事なんてない。
唇が触れそうな距離で、良次が瞬いた。
重たそうな睫毛のカーテンが翻って、俺の大好きな夜空が広がる。
たったそれだけの事で、俺は、何の抵抗も出来なくなってしまう。
良次に触れたい。
触れて欲しい。
何で俺なんかを好きになってくれたのか、不思議なのに。
どうしようもなく、俺だけを見ていて欲しい。
その星が煌めく夜空には、俺だけを映していて欲しい。
綺麗な顔が、興奮している様な、少し困った様な複雑な表情を浮かべる。
眉が顰められているのに、少しも歪じゃない。
それを、俺は、いつの間にかうっとりと眺めていた。
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