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鬼遊び《9》
「それでね、先生が~」
帰りながら恋バナやスイーツの話をして、今日の楽しい一日は天皇寺の一件を俺の頭の中から綺麗に払拭してくれた。
「小野部利久」
不意に聞き慣れない声に呼ばれて嫌な予感がした。
フルネームで呼ばれる時は、大体ロクな事にならない。
振り返ると、そこには他校の制服を着た見覚えのないヤツらが10人位いた。
「一匹狼で有名だった小野部利久が、転校した途端女侍らせて良い御身分だな~」
「と、トッシー…、知り合い?」
「…いや」
知っている顔は一人も居ない。
よくある事だ。
知らないヤツらの上に、口振りはとても友好的とは言い難い。
まずいな。
不安そうな女子達を後ろ手で庇い、半歩前に出る。
「お前ら、先に帰ってろ」
「でも………」
亜希が心配そうに俺を見上げる。
「トッシーを置いていけないよ」
百合子が俺の袖を引っ張る。
その手が震えていた。
馬鹿だな。
怖くて仕方ないだろうに。
俺なんかを心配してねぇで、さっさと逃げれば良いのに。
こんなに良いヤツらを、大事な友達を危険に晒す訳にはいかない。
「俺なら大丈夫だから、な?」
「かっこいいねぇ~」
わざとらしい声色の挑発をしてくる連中を、不安そうに震えていた百合子が睨みつける。
「俺達も仲間に入れてくれよぉ、一人じゃこんな人数の女相手しきれねぇだろ?」
「百合子」
挑発に乗るなという意味を込めて、百合子の名前を呼ぶ。
子兎みたいに震えていた百合子の瞳に怒りの炎が灯った事に気づいて、俺は内心焦っていた。
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