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第1話
ぼくのおとうさんはぱんをつくってます。とてもおいしいです。ぼくもおおきくなったらおとうさんみたいなさいきょうなパンやさんになります。
◆◆◆
幼い頃に書いた将来の夢を見つけたのは荷物を整理していた時。
福岡から東京に出た時に母親がこっそりと荷物の中に昔のアルバムを忍びこませていて中に挟んであった。
「余計な事思い出させるだろーが」
一護 はため息をつく。
会社の転勤で結局は地元へと戻る事になった。
それは父親が去年突然亡くなったから。
まだ元気で仕事も現役で働いていたのに出張先で倒れてそのまま。
連絡を受けて慌てて帰った。
普段は仕事が忙しいと嘘をつき、盆か正月のみしか帰らなかった。
久しぶりに会った母親が急に老け込んだように見えた。
伴侶が亡くなったせいもあるだろうけれど、こんなに小さかったっけ?と感じた。
母親は葬式を涙ひとつ見せずにやり終え、来客を対応していた。でも、夜中に声を殺して泣いているのを見てしまい、自分は一人息子だし、母親を1人にするのが申し訳なくて会社に転勤願いを出した。
実家から会社まで車で1時間くらい。まあ、いいかと思う。
東京には未練はない。別に彼女がいるわけでもないし親しい友人が居たわけでもない。会社での付き合い程度。1数年住んだくらいじゃ未練なんて残らない。
田舎で暮らした時間の方が長いから。
◆◆◆
キャリーを引いて駅に着くと「おかえりなさい」と声がした。
母親が自分を見て嬉しそうに微笑む。
「迎えなんて良かったのに」
一護はキャリーを持ち上げて車に乗せる。
「ご飯もあんたの好きなもんばっか作ったとよ」
ニコニコ笑う母親を見て帰ってきて良かったって思った。
車に乗り込み走り出すと懐かしい風景が飛び込んでくる。
駅から実家まではほんの少し。なので歩いて帰る事も出来たのだがきっと自分に少しでも早く会いたいのだろう。それが嬉しい。
車から降りると「あら、恭平ちゃん」と母親が声を出す。
恭平ちゃん?
一護は顔を上げた。
実家のシャッター前にスーツを着た長身イケメンが立っている。
「こんにちは」
長身イケメンが一護の母親に軽く会釈して次に一護を見た。
「よう、一護」
ニヤリと笑うイケメン。
「恭平」
「久しぶりだな」
恭平は一護の近くに行くと彼が持っていたキャリーを手にする。
「お前、高校から全く変わってなくね?顔も身長も」
恭平はポンポンと一護の頭を撫でる。
頭ポンポンで一気に学生時代の思い出が溢れた。
泉恭平 。
一護の幼馴染みで幼稚園から高校まで一緒だった。
でも、大学は一護が東京に行ってしまったのでなかなか会えなくなり、今に至る。わざと連絡しなかったというのも理由にあるのだが。
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