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第2話

「うるさい!」 一護は恭平の手を叩く。 「気の強さも相変わらず」 恭平はニコッと昔と変わらない笑顔で微笑む。 その笑顔にいつもやられるというか言う事を聞いてしまうのだ。 「恭平ちゃん、ご飯食べていってよ」 「いつもすんません」 恭平はペコっと頭を下げる。 いつも? 一護はいつもという言葉に反応した。 「いつもって何?」 母親を見ると「恭平ちゃん良くご飯ば食べていくとよ、1人で食べるより良かし、恭平ちゃんいっぱい食べるけん作りがいあるし」なんて言われた。 「恭平」 お前いつの間にと言いたかった。でも、昔っから互いの家でご飯を食べていたのだから不思議ではないのだが大学からは会ってないし、母親も恭平が来てるなんて言わなかった。 「おばちゃん泊まってもよか?一護おるけん」 「よかよ!」 「ちょ、母ちゃん何いいよっと」 「一護、久しぶりに風呂一緒に入るか?」 ニヤニヤする恭平につい顔が赤くなって「ばーか!」と子供みたいな言い返しで先に家に入ってしまった。 「相変わらずかわかうと面白かねえあいつ」 「昔みたいでよかねえ」 恭平と母親は笑い合うと家の中へ。 ◆◆◆ 一護は自分の部屋より先に作業場へ足が向いてしまった。 1年誰も触っていない機械や作業場なのにピカピカで綺麗だ。 母親が毎日欠かさず掃除しているからだろう。 一護の家はパン屋を営んでいた。 父親が始めた店で商店街の中にある自宅兼店。 パンの香りで目が覚める。それが一護の日常だった。 母親も手伝っていて朝早くから店を開けて数人の従業員と切り盛りしていた。 父親のパン屋は繁盛していた。かなり人気の店で中学からは恭平と一緒に手伝って小遣いを稼いでいた。 パン屋の香りがいつもしていたのに父親が亡くなってからパッタリとしなくなった。 「おじさんのパン美味かったよな」 真後ろで恭平の声。振り向くと少し寂しそうだ。 「恭平、お前ずっと来てたのかよ」 「きてたよ?何で?」 「あ、会わなかったじゃんか」 「お前が急に無視するからだろ?」 その言葉に一護は返す言葉もなく黙り込む。 「あー!もう、そうやって直ぐに黙る癖直せよ!」 恭平は一護の頭に両手を乗せてクシャクシャに髪を撫でる。 「やーめーろ!」 一護は必死に抵抗する。 「お前、もう俺を無視すんなよ?」 「べ、別に無視とかしとらんし!!恭平があんな事するけん、どーして良かとかわからんくなるだけたい」 「あんな事って?」 恭平の顔が近付く。一気に顔が熱くなる。 あんな事。分かってて聞いてくる意地悪さは学生時代から変わらない。 「お茶入ったよう」 母親の声で一護は慌てて「い、今いく!」と恭平を押しのけた。 ◆◆◆ 3人でテーブルに着く。 「恭平ってしょっちゅう来てたと?」 「来てけど?あんた知らんかったん?」 母親が首を傾げて不思議そうに一護を見る。 「知らんし」 「恭平ちゃん、百貨店で働きよるとよ」 「は?」 一護は恭平を見る。お前が百貨店?っていう顔で。 「おじさんと仕事してた」 恭平の言葉にさらに驚く一護。 「俺、催事担当なんよ」 「催事?催事ってあの催事?」 「他になんがあるとよ?」 催事とは百貨店って1年中やっている行事で日本全国から選んだ食材や雑貨を催事場と呼ばれる開場に集めて販売をする事。百貨店の売上に貢献している行事だ。 一護の父親もその催事に出店をしていたので全国を回っていた。 その出張先で亡くなったのだ。 年齢的にも無理をしたのかも知れない。過労で亡くなるという話をたまに聞いていたから。 それでも全国に出ていく父親の後ろ姿を覚えている。 パン屋だけでも忙しそうで。パン屋だけの方が一護は良かった。 小学生に上がった頃から父親は催事で家をあける事が多かった。 寂しくて寂しくて「父ちゃんいかんで」と泣いた事は遥か昔。

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