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第3話

「おじさんのパンが1番の売りだったんよ、うちの百貨店。未だにいつ来るのかって客から問い合わせがくる」 恭平の声で我にかえる。 「ずっとおばちゃんば説得しよったったいね」 恭平は一護をじっーと見つめる。 「なん?」 恭平は学生時代からカッコ良かった。学生時代は幼さがあったがあれから10年経てばそこに色気が加わるわけで、しかも艶っぽく見つめてくる。 一護はその顔に弱かった。 「お前、パン屋やれよ」 「は?」 いきなり何だ!と思った。 「おじさんのパン作れるのお前しかおらん、お前が帰ってくるって聞いて待ってた」 一護は何を言われているか理解出来ずにいた。確かに家の前にいた。それは自分を待ってたというよりパン屋を再開させる為に待ってたって事?そう考えると腹が立った。 10年振りに会うのに仕事?恭平は催事担当って……えっ?売上の為?恭平ってそういう奴だったっけ? 頭の中はパニックで。パニックになると一護は逃げる癖がある。 いきなり立ち上がると無言で2階へ猛ダッシュ。 「一護!」 名前を呼ばれたが振り向かずに駆け上がった。 「おばちゃん、説得してくるけん!上で騒いでも気にせんで」 「ああ、よかよ、買い物いくけん」 母親はニコッと微笑むと財布を手にした。 ◆◆◆ 恭平のばーかばーか!! 心の中で文句を言いまくりベッドにダイブ。 再会できて嬉しかったのに。 帰省しても恭平には会えずにいた。 家は知っているから会えに行けば良かったのにどういう顔をして良いか分からなかった。 でも、実際会うと自然に昔みたいに話せた。 会えて良かったって思ったのに。仕事かよ!くそ恭平! 「お前相変わらず何も言わずに逃げるよな」 真上から恭平の声。 うつ伏せに寝ているから顔は見えない。見ない方がいい。 「うるさい帰れ」 「嫌だね」 「帰れって!お前の顔なんて見たくない」 強く言葉を言う。 恭平に強気で出た事なんてなかった。いつも負けるから。 「俺はお前の顔見たいけどな」 恭平のその言葉の後に身体がふわりと浮いた。その後仰向けにさせられた。 恭平が自分を見下ろす。 逃げようと身体を起こそうとするが両手を押さえ込まれた。 「何すんだよ!!」 「お前逃げるつもりやろ?逃がさんし」 恭平が掴む手に力が入り同じ男なのに振り払えない。 「もう、逃がしてやらんし!10年だぞ?ほんと、お前クソやんけ」 自分を見下ろす恭平はなんか怒っているようで少し怖い。 「くそとか……」 「お前、童貞なん?」 「は?」 いきなりの質問に固まる一護。 「俺も、我ながらキモイって思うよ28にもなるとに経験なしとか、ばってんくさ、キスとか抱きしめたいとか思うとはお前以外におらん」 真っ直ぐに見つめられて一護は言葉を失う。 高校の時に恭平に今みたいに押し倒されてキスされた。 「待っててお前言うたやろ?10年とか何なん?このまま俺を魔法使いにする気か!!」 一護は最後の言葉に恐怖心が薄れて笑ってしまった。 「お、俺だって童貞やし……キスとかも恭平以外しとらんもん」 一護は勢いで言葉にしたものの恥ずかしくなって目をそらす。 「あー!お前卑怯やぞ!そうやって可愛い顔ばすれば俺が許すと思うとるやろ?」 「はあ?そげんつもりなかし」 思わず視線を恭平に戻すと「まあ、許すっちゃけど、俺、お前に弱かもん」 恭平はそういうとそのまま一護の唇にキスを落とす。

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