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第20話

ふと、目を開けたら風呂場ではなくてベッドに寝ていた。 あれ?と思って身体を起こす。 「よう!起きたか?」 恭平が側にきた。 「あれ?なんで?」 「なんでって、そりゃあお前が風呂で寝ちゃったからだよ」 「はっ?」 「急にクタってなるから驚いたばい」 「マジで……ごめん」 「いいって俺だって本気で抱くつもりなかったしな」 「えっ?」 「やっぱ、負担はお前の方が大きかし、催事終わったあとに無茶苦茶抱くつもりやけん覚悟してろ」 そう言われて自覚した。恭平の言う通り、ファザコンかも知れない。恭平に甘えたかったんだ。 父親がもう居ないんだって再確認したら凄く寂しくなってしまった。恭平はその気持ちに気付いているから無理に抱かないのだ。 「やっぱ、恭平好き」 「は?いきなりなん?嬉しかばってん」 恭平が顔を赤くして狼狽えている。 「好いとーよ」 一護は恭平に抱き着く。 「あーもう!このクソッタレ!!ほんと、わかっとらんし」 文句を言いながらも抱き締めてくれる。 「いま、何時?」 「深夜やな」 「明日の仕込みしにいく」 「そうやな俺もいく。飯は容器につめて店にで食おう」 「うん」 一護は恭平と立ち上がる。 ◆◆◆ 店には明かりがついていて鈴木と母親がせっせと明日の準備をしていた。 「遅くなってごめんなさい」 鈴木に謝る。 「よかよか、疲れたやろ?」 鈴木は相変わらずの優しい笑顔だ。 「恭平ちゃん、あんた、寝らんでよかとね?」 「ん?大丈夫、手伝うよ」 母親に心配されながらも恭平は一護の側に立つ。 「おばちゃん、俺ね一護と最強のパン屋さんするって決めたけん」 突然の言葉に一護は固まる。 「は?お前仕事は?」 「ちゃんと引き継ぎして辞めるつもり、俺ば雇ってよ店長」 恭平はニコッと笑う。 「よかよ」 母親はあっさりと承諾。 「今まで貰ってたみたいな給料だせんぞ?」 一護は恭平の腕を掴む。 「なんで?十五夜これから俺が大きくするっちゃもん、問題なかろ?」 余裕で微笑む恭平。 「恭平ちゃん営業うまかもんね」 ニコッ微笑む母親。 「でも……」 「いっちゃん、恭平がおったら鬼に金棒ばい?シゲさんの夢叶えちゃれよ」 「夢?」 鈴木の言葉に一護はキョトンとする。 「最強のパン屋さん!シゲさん言いよったけん、最強のパン屋さんになるって」 一護は笑ってしまった。 そうだ!恭平がいれば最強のパン屋さんになれる。 「うん、なろう……最強のパン屋さんに」 一護は恭平に微笑む。 「それと、おばちゃん、一護、俺にちょーだい」 「は?」 彼の急な言葉に一護は母親と恭平を交互に見る。 「一護と最強のパン屋さんになるって約束するし、一護ば幸せにする、俺、一護のこと小さい頃から好きやったん」 「恭平!」 何言い出すんだあ!!と一護はオロオロ。 一人息子が男にもっていかれるって、普通の母親ならきっと倒れる。 「あらあ、やっと言うたと?一護は意地っ張りで鈍感やけん苦労するよ恭平ちゃん」 母親はケロッとした顔で言う。 「母ちゃん?」 「息子が増えるってすごかねえ、お祝いせんばね、鈴木さんケーキ作ってよ?」 ニコニコと笑う母親に一護の方が倒れそうだった。 「流石、一護の母ちゃんやな」 ふふっと笑う恭平。 後から聞いた話。 彼女はとっくに俺らの気持ち知っていた。 世間ではきっと反対される事なんだろうけど、母ちゃんはそげんこと気にせんし、孫?なんね?あんた子供ほしかとね?そしたら犬飼えばよくなかか?あ、私が欲しいかって事か?あんたと恭平ちゃんがおるけん、他に贅沢いわんよ。 と一護は言われてしまい。流石俺の母ちゃんと思った。 催事は大成功に終わった。 売上も常にトップ。 「一護、また催事の依頼きとるぞ」 恭平が嬉しそうに言う。 「その、話はあとやん」 一護は恭平をじっと見つめる。 催事が終わったから恭平の部屋で約束の初エッチなのだ。 この前と違い恭平が緊張していて可愛い。 「俺……童貞言うたやろ?痛くしたらごめん」 真顔で言われて一護は笑う。 「俺も童貞やもん……覚悟しとる!よろしくお願いします」 ベッドの上で深々頭を下げる。 「それと10年またせてごめん」 そういうと恭平は「うん、待ったかいあったけん良か」と笑う。 恭平と会えて良かったと思う。 恭平にパン屋やれって言われなかったら父親の気持ちも分からないままだったし、こんなに楽しい事に出会う事なかった。 「恭平、好き」 一護はギュッと恭平に抱き着く。 「2人で最強のパン屋さんになろうね」 そういって一護自らキスをした。 恭平とならきっと、なんでも乗り越えられる最強のパン屋さんになれる。 父ちゃん、空から見とってな。

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