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第3話

審判の日。突然やってくる、なんの下準備もできないその日。しかしもし予測できていたとしても、俺にそれをとめることができただろうか? その日は夕方の終わり際に帰宅した。ドアを開けてみると、部屋の中はもうすでに暗い夜にさしかかろうとしていた。 かなではいない。とはいっても、ここでは電灯の青白い光の下にいる姿しかみたことがないので、もしかしたら部屋の暗がりにいるかもしれない。黒猫を探すがごとく目をこらしてみても、彼はみつからない。 いつか注文した椅子に座って、俺はかなでを待つことにした。黒の安っぽい革張りの、細長い椅子はかなでが好んで注文したものだった。座ると僅かに前後に傾く。体重を移動させるたびにカタンカタンとリズムを刻んだ。 かなでは来ない。ときたまフラットの隣の住人か、赤ん坊の泣き声が遠くで聞こえる。蜃気楼のように微かで背景に溶け込むような音。かなでが来ない。 コーヒーを入れようと立ち上がり(がたんと一際椅子が揺れ動いた)、キッチンへと向かう。銀のスプーンを探して手元を探ったところで、俺はいまさらながらに辺りを覆う闇の濃さに気がついた。窓に目を向けると、空には星たちが咲いている。もう夜の帳がおりて、だいぶ時間が経ってしまっていたのだ。 ふとカウンターにおいてある缶が目に映った。黄色や赤の、砂糖菓子で出来た花たち。中を覗いてみると、あの無数のロリポップは全て摘み取られ、底には冷たい銅版が光っている。 冷たい夜、空の銅缶。いまや長いことスープ皿も何も載せられていない、埃のつもりそうなオーク材のテーブル。堕落を表したかのように乱れたままの緑色のベッド。哀れな雛菊は踏み潰されたように形をゆがめていた。いつか言った台詞を覚えているだろうか?熱くてとびきり生意気な身体に純粋で残酷な魂を宿す、我が愛しの人よ。この素敵な鳥かごを、鳥かごを―― ああ。そうだ。 そして、そこで俺は急激に悟ったのだ。ああ。 とうとう小鳥は猫に食われてしまったのだな。

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