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16.「そうだ、戸塚くんも遊ぶ?」
昼休み。伊宮と戸塚は屋上で黙々とお弁当を広げていた。
彼等はあの件以降、女子達の視線は今まで以上に熱く痛いものではあるが、学校内で共に仲睦まじく過す関係となっていた。少し、違和感を抱えながらも。
その違和感。彼はなぜ、今更自分なんかと仲良くしてくれているんだろう、というものだ。
戸塚京也、艶やかな黒髪に、凛として冷たい顔。高身長で鍛え抜かれた美しい筋肉を持つ彼は、二年の春に編入してきた転校生だ。
小中と伊宮のみが王子と呼ばれていたこの学校で、彼の登場により王子は二人となり、学校の女子達は大いに盛り上がっている。とは言っても、当の王子と呼ばれる彼等は、女子達の期待通りに親交をしようとしなかった。
それもそうだろう。伊宮は女子達のそのような思惑に勘づいていたから戸塚には近づかなかったし、戸塚自身も見た目通りの性格か伊宮や周囲の生徒と関ろうとはしなかったのだ。
それから二ヶ月が経つこの時に、なぜ彼は伊宮に近づき、このように仲良くしようとしてくれているのか、不思議でたまらない。裏があるようにしか思えない。けれど、裏があったとしても、自分と仲良くして彼になんのメリットがあるのだろうか。彼ではなく女子達にはメリットは大ありであろうが。
伊宮がもやもやと考えている、と。彼の携帯にメッセージが送られる。そこには、日高と早乙女とのグループからであった。
『せっちゃん、中間試験終わった〜? 久しぶりに遊ぼうぜ〜』
『今度は、学校の近くへ迎えに行く』
そう、伊宮の学校ではちょうど今日で、詳しくはこの昼休みの後に一教科を済ませることで、中間試験も終わる。その日付を伝えていたからこそ、今、日高と早乙女が数週間ぶりに連絡してきたのだ。
そのメッセージに返信をしようと携帯を弄ろうとした伊宮は、ふとこんな言葉を溢す。
「そうだ、戸塚くんも遊ぶ?」
「……?」
◇◆◇
そうして残りの試験を終えた伊宮と戸塚は、学校近くの通学路ではない公園で日高達と待ち合わせをすることになった。
伊宮は今でも、なぜ二人との遊びに彼を誘ってしまったのだろうかと自分の口を抓りながら考える。
いくらなんでも急すぎるだろう。伊宮は口走った内容に戸惑う戸塚に、詳しく誰と遊ぶか、その二人はどんな人達なのかを慌てながら説明した。それを聞いた戸塚は、少し固まりながらもなんの疑問を彼に投げずに、黙ってこくりと頷いたのだ。
そして、今に至る。
伊宮は二人が来るまでに、自分がそんな行動を起こした理由を探そうとした、が。まぁ、理由などとうに分かりきっていた。
彼といると、日高と早乙女達と同じ、心地よい空気を作ってくれるから。
伊宮はこの数週間、今までの友達のようで友達ではなかった者達と過ごすよりは、楽しい日々を過ごしていた。特にこれといったものはないけれど、戸塚の物静かで黙っていても落ち着く感覚は、伊宮にとって日高や早乙女と同等の物を持っていたからこそ、伊宮も今日まで仲良く出来ていたのだと考えた。
だからこそ、伊宮は無意識に、日高と早乙女にも彼のことを紹介したくなったのだろう、と。
そう、自分の結論に心の中で頷いていると。
「聖司様!」
偶然にも、伊宮達のいる公園にプライベート姿の京が現れる。今流行りの襟付き白トップスに、薄紫のロングスカートと、とびっきりのコーディネートだ。
「あれ、京さん? どうしたのこんな所で」
「いえ、実は聖司様のお友達である早乙女さんに聞きたいことがありまして……なので、出てきちゃいました。お邪魔でなければ、私もお遊びに混ぜていただければ……って、聖司様」
京は聖司の隣にいる見知らぬ男子生徒に目を向ける。
「その隣の方、はっ!?」
「えっ」
「京牙兄さん!」
二人が話していると、伊宮の隣に立っていた戸塚は、風の如く京に抱きついた。
「……ん?」
しかも、彼を兄と呼んだ。
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