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15. 「僕の、大切な友達の悪口、言わないでっ!」

 伊宮が二人と楽しい時間を過ごした次の日。二人のことについて、女子生徒陣に質問攻めさせられるという覚悟を持ちながら登校したのだが。 「……何もない」  そう、何もないのだ。誰も、伊宮に昨日のことを聞いてこない。そもそも、彼自身がうざがっている女子生徒からの視線が、いつもと違うように感じ取っていた。  覚悟をしていたのに何もない現実に、安堵のため息を漏らす伊宮。上履きに履き替えて教室へと移動しかけた彼を。 「おい」  と、重めの声が止める。伊宮が振り向くと、そこには昨日伊宮を遊びに誘っていた西園寺とその取り巻き達が居た。 「あぁ、おはよう西園寺君」 「なぁ、昨日のあいつら……どういう関係だ?」 「へ? あいつらって……日高君と早乙女君のこと、だよね? どうして西園寺君が」  女子生徒なら分かる、けれど男である彼から質問をしてくる意図を、伊宮は汲み取れずにいる。 「だって不思議じゃないか。この高学歴・金持ち学校で王子様と呼ばれてる伊宮くんが、底辺な学校に行ってそうな奴等とつるんでるなんて」  彼の口から出た言葉に、伊宮は驚きのあまり言葉を失った。 「昨日いた奴等は全員思ってるはずだぜ。聞きたくて聞きたくて仕方がないって顔してやがる。だから、君の友達として俺が代表で聞いてるわけ。で? 本当のところどうなのさ。いつの間に他校でパシリを見つけたんだ?」 「パシ、リっ!?」  伊宮の驚きぶりに、西園寺や、その周りの取り巻きもニヤニヤと笑みをみせる。 「何? 違うのか? だって、君とあの二人とは色々と差がありすぎるだろう。学校もそうだろうし、品も無い、ガラの悪そうな……」 「僕のっ」  今までの彼から発せられたことのない怒声が溢れだす。 「僕の、大切な友達の悪口、言わないでっ!」  伊宮は涙目になりながら西園寺に詰め寄る。 「あの二人は僕の唯一の友達なんだ! 優しいし、面白いし、一緒に居て楽しいし! 何にも知らないくせに、勝手なことを言うな!」  伊宮は肩を上下に動かし、息を切らしながらも、彼に言い切った。  伊宮が怒ったこと、叫んだことに、朝の登校時間を楽しんでいた生徒達が目を丸くさせる。  あのほんわかな王子様が怒った、と。  伊宮の豹変っぷりに狼狽える西園寺。だが、伊宮の態度がふつふつと気に食わなくなってきた彼は伊宮をジッと睨む。 「なんだよ、わざわざ忠告してやってるんだろ! 俺達じゃなく、あんな奴らとの約束を優先するなんて、おかしいだろ!」 「何言ってんの、おかしくなんかないよ! そもそも、約束が無くても君達とは遊びたくないっ!」  睨み合う二人に、誰も踏み込めずにいる中。 「ねぇ」  二人の無意味な喧嘩に割って入る者が現れる。 「朝っぱらから、うるさいんだけど」 「と、戸塚」  艶やかな黒髪に、凛として冷たい顔。高身長で鍛え抜かれた美しい筋肉は、キッチリと着こなす制服の上から見ても分かる程だ。 「戸塚王子様だ!」  伊宮が白の王子様なら、彼、戸塚京也は黒の王子様で、この学校では名が通っている。 「黒の王子様が、喧嘩の仲裁に?」 「でもなんで? 伊宮と戸塚って同じクラスだけど仲良くはないだろ?」 「話してるところなんて、見たことないもんな」  そんな話が生徒間で流れる中、「おい、なんなんだよ!」と西園寺が戸塚に話しかけるものの、当の本人は伊宮のみを見つめている。  話したこともない彼からの視線に首を傾げる伊宮。  一向に自分の方を見ようとしない戸塚に痺れを切らした西園寺は「なんか冷めた」と、そっぽを向いてこの場から去って行った。  元凶である西園寺が去ったことで、野次馬であった他の生徒達も足早に教室へと向かっていく。 「えっと……ありがとう、なのかな」 「ん?」  伊宮の感謝の言葉に、先程の彼を同じように首を傾げる戸塚。 「だって、君が来てくれたおかげでこの場は収まったのかな、って。あはは」 「……ただ、うるさいなと思っただけ。それだけ、だから」  戸塚は伊宮にそう言い残して、自分の教室へと歩き始める。 「あ、戸塚くん、待ってよ! 一緒に教室行こう!」  伊宮は小さな歩幅で、大きな戸塚へと追いつこうと早足になるのであった。  こうして、慌ただしい朝が終わりを告げる。  戸塚は後ろから懸命に追いつこうとする伊宮を横目に見ながら。 「……ひとまず、第一ミッションは完了。第二ミッションは……友達になること」  ボソリと、そう呟くのであった。

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