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14. 「生クリームは得意じゃない。それに、俺が作るのは微糖だ」

 学生から大人まで多くの女性達が溢れる、お洒落で落ち着きのあるカフェの店内。そんな場所で、異質と呼ばれても仕方がない三人はやってきていた。 「お待たせいたしました! パンケーキストロベリーとパンケーキマンゴー、どちらも生クリーム増量。エッグフレンチトースト。以上です。どうぞ、ごゆっくりお召し上がりください」  待望のものがやってきたことに、伊宮と早乙女は「わぁ!」「おぉ!」と目を輝かせ、歓喜の声を抑えずに入られなかった。しかし日高だけは、それを見て「うおっ……」と彼等とは違う苦しげな声をあげる。  伊宮にはマンゴーが早乙女にはストロベリーがそれぞれの前へと置かれる。どちらもパンケーキが五枚も添えられ、その中央に高く高く、見ているだけで胸焼けを起こしてしまいそうな生クリームが盛られている。 「お前ら、よくそんなの食べれるな? 晩飯入るのか?」  もちろん、日高は残りのエッグフレンチトーストだ。フレンチトーストに半熟の目玉焼きがのっている。こちらも美味しそうだ。 「うん! 今日は食べちゃう! 晩御飯は頑張って食べる!」 「あはは! デザートなんて別腹やから! というか、ゆっちゃんは菓子作れるのに甘党ちゃうんやね?」 「生クリームは得意じゃない。それに、俺が作るのは微糖だ」  生クリームとパンケーキにシロップをかけていた伊宮が、日高のその話に驚く。 「へぇ、日高君お菓子作れるんだね! すごいや! 僕なんて京さんや蒲さんが居ないと焦げちゃったりするんだよね」  伊宮がニコニコと微笑みながら話すと、日高はふっと口角をあげる。」 「あぁ。……母さんに、よく作ってたんだ」  彼の表情は微笑んではいるが、そこにほんの少しだけ影が差す。  そんな彼の表情に違和感を持ったのか、首を傾げる伊宮ではあったが、「そういえば!」と早乙女の声につられる。 「せっちゃん、学校で王子様って呼ばれてんの?」 「んぐっ!」  早乙女の発言に、伊宮は驚きのあまり口に含んでいたパンケーキを喉に詰まらせてしまう。 「えっ! せっちゃん、大丈夫!? はい水!」  早乙女に渡された水を伊宮は一気に飲み干し、日高と早乙女に見守られながらゆっくりと深呼吸をする。「……王子様って……あぁ……二人を見てた子達が呼んでたね」と伊宮は零した。 「あっ、まだ怒っとる? 俺ちゃんの苺あげる!」 「あはは、怒ってるわけじゃないんだよ。あの……ごめんね、ああやって言われたりするの嫌じゃなかった?」  伊宮は表情を暗くさせ、彼等にそう問いかけた。その質問に、早乙女と日高は首を傾げる。 「嫌ではなかったで? 一応モデルやから黄色い声もらうんは慣れとるからな! ……まぁ、かなりうるさいなぁとは思ってたけど」 「俺はどうでもよかった」  そんな陽気な二人の発言に伊宮は「そっか…よかった」と安堵の表情を見せる。そして「あのね、僕が王子様って呼ばれてるのは」と話を始める。 「その……自分で言うのもどうかと思うんだけど。見た目が、さ。良いから、らしいんだよね。頭も良くて、優しくて、愛らしくて。それで学校内では王子様っていうあだ名がずっとついてきてるんだ。……僕は嫌なんだけどね。皆にとったらそう呼びたくても、それでちやほやされたり好意を持たれたりするのは……なんだか苦手で」  むしろ、と伊宮は瞳を斜め隣りに座る日高を見つめる。自分にとっての王子様を。彼は彼からの視線に気付くことなく、話を聞きながら黙々と料理を楽しんでいた。そんな中、早乙女の渇いた笑い声が、日高を見つめていた伊宮の耳へと入る。 「はは! 我儘やなぁ、せっちゃん。人によっちゃ、せっちゃんの立場は羨ましいやろうに」  そんな早乙女の発言に、伊宮は頬を膨らませる。 「そんなの知らない。僕は嫌なんだもん。それだけの話だよ」  伊宮の言葉に「ハハッ。ごめんごめん。そういう考え、俺ちゃん大好きやで」と軽く感じる声ではあるものの、彼に謝った。 「……伊宮」  と、ずっと黙々と食べていた日高が、食べる以外で口を開いた。 「なに?」 「明日、学校で何かあったら、頼れよ? その原因は、きっと俺達だから」  日高の言葉に「そ、そんなの!」と伊宮は大きく首と手を振る。 「気にしないで! 何かあったとしても、きっと二人の事についての質問攻めだと思うし。そんな二人を頼る程のことなんて無いよ。だから、ありがとう。その気持ちだけ受け取るよ。それに」  伊宮は日高と早乙女を交互に視線を動かしながら、彼等に微笑身を向ける。 「驚きはしたけど、迎えに来てくれたのは、すごく嬉しかったんだよ」  そんな彼の言葉に、日高は「……そうか」と再び黙々と食べ始めた。早乙女も、口角を上げながら、自身の苺をまた一つ彼の皿に置いた。 ◇◆◇ 「なぁ、伊宮。昨日の二人はなんだったんだ?」 「えっ、えっと……」  次の日、伊宮は女子の大群からではなく、西園寺に質問攻めされていた。

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