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今日で何日だ?
ジョギングしていない日数を数え不破はため息を吐いた。
それはつまり=久重と会えていない日数。
机上カレンダーには今後の予定を書き込んでいる。この調子だとあと数日は余裕がないだろう。仕事は好きだし忙しいのは有り難いことだと思う。
でも、好きなヤツに会えないのはなぁ…
今まで付き合ってきた彼女達に対して、こんな感情を抱いたことはなかったのに。
会えなくて淋しい、なんて。
久重のあのどこか舌っ足らずな声で『ふあさん』って呼ばれたい。
丁寧な文字が見たい。
空を見上げる横顔を見つめたい。
「不破くん、帰りに飲みに行かない?ほんとそろそろアルコールチャージしないと倒れるわ。」
突然の声に振り返った。声の主は先輩である藤谷で、首を撫でながらこちらを見る視線に苦笑した。サバサバとした性格の彼女は、こうやって定期的に不破を誘ってくる。それは大抵忙しさがマックスに達しストレスが溜まったときだ。異性だが割りとウマが合う藤谷との飲みは、不破にとっても良い気分転換になる。今週の忙しさからしてそろそろだろうと思ってはいたが、今はそれよりも優先したいことがある。
「藤谷さん元気っすね…俺なんか今酒飲んだらぶっ倒れますよ?帰って寝ましょうよ、明日のために。」
「えー、つまらんなぁ。もしかして彼女できた?」
ニッと笑う藤谷に「違いますよ」と肩をすくめ鞄を掴んだ。
久重が彼女か。
藤谷の言葉を反芻しながらエレベーターを待つ間にもしも…と妄想が広がる。
恋人になってくれたらどんなに幸せだろう。
久重は人目を気にするかもしれないが、デートでだって堂々と手を繋ぎたい。男だけど細い体を抱き締めて温もりを感じたい。
それだけじゃなくて、遠慮なくあんなこともこんなこともしたい…
「…不破くん、なんか顔が気持ち悪い。」
「え、出てました?」
「うん」
妄想で顔がにやけていたらしい。
指摘され顔を一つ叩くと、到着したエレベーターに乗り込んだ。腕時計を確認すればまだ今日は比較的早い時間だ。
帰ったら勉強できるな。
先日買ってきた本とDVD、そして探し当てたネット関係。ここ数日、夜は毎日それをしている。藤谷との飲みよりも優先したいそれは、今の自分に一番必要なことだ。
あんな疎外感にも似た嫉妬…カッコ悪い。
悔しかったのなら自分もできるようになれば良いだけだ。
「じゃあ、また明日ね。次誘ったときは付き合って。」
「了解です。気をつけて。」
会社の前で藤谷と別れる。早く帰って少しでも練習したい。
久重と対等でいる為にも…
そう思っていたところに。
「…ふあさん」
「!!」
今一番聴きたい声が不破を呼び止めた。
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