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水族館に行った日から10日。スマホに連絡が来ていないかチェックする日々が続いている。
あの日以降、不破と朝の散歩で会えていない。
『忙しくて暫くジョギング無理かも』
そう連絡を寄越して来たのが随分と遠い日のように感じる。会えないのは仕方ないと思う。思うが、あの水族館での不破の様子が気になって仕方ないのだ。結局どうしたのか聞くことができずに別れてしまったことが、こんなにも尾を引いている。
いつもと同じ時間、同じ場所で空を見上げる。
足元にはルイ。
ほんの3ヶ月ほど前まではこうして一人で過ごすことが当たり前だったのに、今では不破がいることの方が自然に感じる。
…今日は雨が降るかな。
どんよりとした空は重苦しく、今の自分の心のようだ。
『空(そら)』
両親は自分にそう名付けた。
けれども自分の名前と同じ『空』には色んな表情と…音があった。
子供の頃からその『音』を想像するのが好きだった。
真っ直ぐな雲を作る『飛行機』
青空を飛ぶ『鳥』の囀り
涙を流したかのような『雨』
世界を白く染める『雪』
そして…空を切り裂く『雷』
自分にはない音の世界。
その中でも雷の音を想像するのが一番好きだった。
雨雲を光らせたり、時には稲妻となって空を切り裂いたり…
聴こえなくとも、そのパワーを見ると体の中に音が広がるような気がした。
不破と出掛けた時にも空には雷が光っていた。
『こわい?』
そう聞いてくれた不破の優しさに首を振った。
怖くなどない。
むしろワクワクしていたのだ。
聴こえるはずのない雷の音に耳を澄ました。
そして何より…不破が一緒に聞いてくれていたことに、例えようのない喜びを感じていた。
「…クゥーン」
「……………」
ルイが起き上がり足に頭を擦り付ける。その頭をゆっくり撫でればペロッと舐められた。
お前も不破さんに会いたいよな。
彼は何度もルイの名前を呼んでくれていた。
それは自分に対しても同じで、聴こえないと分かっていても名前だけはいつも呼んでくれていたことを知っている。
「……………」
こちらから会いに行ってみようか。
気持ちがスッキリしないまま、こうやってずるずると過ごすのは嫌だ。彼の顔を見ればそれだけでこのモヤモヤとした気持ちが晴れるような気がした。
頬を打つものを感じ、空を見上げた。
広げた掌に落ちてきた雨粒。
それをグッと握りしめると、久重は立ち上がった。
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