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私は何か失礼をしただろうか…? 横に立ちクラゲの水槽を眺める不破をチラリと伺い、小さく息を吐いた。昼御飯を食べてからの不破は、どこか様子がおかしい。 けして機嫌が悪い訳ではない。ただ、いつも太陽のように笑う彼がどこか憂いを帯びているように感じるのだ。 何か失礼をしたのなら謝りたい。 彼のことが大切だからこそ、そう思う。 聴覚障害を抱えている自分と付き合うことが楽ではないことは理解している。仕事相手と会うときであっても、手話ができる人を雇わなければならない時もある。 そんな中で知り合った不破は自分にとって数少ない友人であり、気を許せる相手だ。 遊びに行こうと誘われて嬉しかった。朝からの雨、もしかしたら中止になるかもと心配した。 雨も雷も好きなのに今朝はそれが恨めしく思えた。 『ライトアップされててキレイだって』 不破の書いた文字を思いだし、ガラスの中に広がる幻想的な世界を見つめた。 沢山のクラゲが漂うゆっくりとした世界。 暗い空間の中、ライトアップカラーが変わる度に違った美しさが見られる。 「……………」 見るのを楽しみにしていたのに、心は隣の彼のことばかり気にしている。 不破は今、何を思っているのだろう。 筆談ではなく、声に出して話せたなら彼の考えていることが聞けたのだろうか… 思ってもどうしようもないことを追い払うように頭を振った。音のない世界の中、ゆったりと泳ぐクラゲが好きだった。ひんやりとしたガラスの向こうに憧れるようにソッと水槽に手を添える。 「……………」 お互い何も語らず、時間だけが流れていく。 「……!?」 心臓が跳ねた。 ガラスに添えた己の手を包み込む温もり。 驚きに不破を見つめれば、彼は真っ直ぐに水槽を見ていて。 「……、………」 不破が何かを呟いたが、暗くてちゃんと読み取ることができない。 不破さん、何て…? 自分の手に重なる不破の大きな手。 水槽に押し付けたまま離れることがないそれに久重の心は震えていた。

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