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「空じゃないか!」 水族館の中にあるフードコートの一角。久重と向かい合ってバーガーを頬張っていた不破は、親しげに声を掛けてきた男に一瞬眉を寄せた。 「…………」 久重が笑いながら立ちあがり手を差し出す。男のゴツい手が白い手を掴み大きく揺らすと、次にはその手が器用に胸の前で動かされた。 「久しぶり、元気だったか?」 声に出しながら動かされる手。 「こんなところで会うなんて奇遇だな。ルイは今日は留守番か。」 それは武骨な手とは思えない滑らかな動きだった。 「…………」 久重の白い手も同じように…いや、彼以上に。 まるで奏でるような繊細さで動かされる手。 「そうか。休みでゆっくりしてるところ悪かった。また今度、飲みにでも行こう。」 「…………」 男の誘いに微笑みながら白い手が言葉を紡いでいく。彼の誘いを受けているのであろうことは久重の表情で分かった。 「…それえば、あた(それでは、また)」 「ああ、また。どうもお邪魔しました。」 その後も何度かやり取りを繰り返すと、最後に男が不破に頭を下げた。それに慌てて頭を下げて返すと、男は手を振りながら去っていく。 『急にすみませんでした、友人です』 ノートに急いで綴られた文字。それに「うん」と返事をし、不破は久重の手を見つめた。 「…ふあ(不破)さん?」 久重が首を傾げる。 けれどもそれに答えることなく曖昧に笑って見せると、不破はコーヒーに口をつけた。 普通の会話のようにやり取りをしていた二人の姿が、不破を何とも言えない気分にさせていた。 自分と話すときとは全く違う。 それは不破が初めて見る久重の手話だったー。

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