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到着した水族館は休日とあって人が多かった。
入場ゲートでチケットを買い一枚を久重に渡す。財布を取りだそうとする手首を掴むと、驚いた表情でこちらを見る彼にゆっくりと告げた。
「おひる おごって。」
「…わかりまいた(わかりました)」
そうフワリと笑うと、掴まれたままの手首を困ったように見つめる。
確かに男の手首で細くも柔らかくもないそれ。
けれども思ったより掌に馴染むその太さに、不破は離しがたいと感じていた。
「あの、ふあ(不破)さん…」
「…!」
戸惑ったように名前を呼ばれ慌てて手首を離す。
何やってんだ俺。
こんな人目のある場所で、久重が困ってるじゃないか。
「ごめん、行こう。」
ジェスチャーで手を合わせながら伝え背を向ける。二人で外出していることに浮かれすぎないよう己の心に言い聞かせる。
「…ん?」
不意に肩を叩かれ振り向けば、目の前に示されたノート。
『クラゲ見たいです』
不破の様子を気にした風もなく頬笑む久重に安堵しつつ『ライトアップされててキレイだって』とノートに綴った。
久重、嬉しそうだ。
ワクワクとした様子で先に中に入っていく姿に水族館を選んで良かったと後を追った。
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