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「こわい?」
雷が苦手なのかと訊ねれば、ゆっくりと首を横に振る。男相手に何を聞いているのか、と若干呆れつつまた口を大きく動かした。
「かみなり、どうかした?」
「…………」
じっと自分の口を見つめ言葉を読んでいる久重の視線。それが少し恥ずかしくもあり嬉しくもある。少なくとも今、この瞬間は久重の視線を独り占めできている。
そう思うと子供のように心が踊った。
細い手がさらさらとボールペンを走らせると、視界の邪魔にならない程度にノートを示された。
『雷の音、聴こえますか?』
「……、」
チラッと視線を投げれば、そこには頬笑む久重の姿。そのどこか控え目な微笑みに胸がグッと苦しくなった。
「聴こえてるよ。」
外は雲が光るたびに遅れて低い音が鳴り響いている。車内のBGMに紛れてしまう程度の音ではあったが、確かに雷は鳴っていた。
『そうなんですね、ありがとう。』
示されたノートに綴られた言葉。
その言葉に込められた想いは理解できないが、また窓の外に視線を向ける彼はどこか嬉しそうに見えた。
「あ、また光ったね。」
聴こえるはずのない久重に向け呟く。振り返る様子はないが、外を眺めていた久重の薄い肩が僅かに揺れた。
きっと同じことを思ったのだろう。
そう思うだけで不破の心は満たされていた。
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