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公園までの道のりを久重と歩きながら、不破は覚悟を決めていた。 これから告げることは今の関係を壊すものだ。 けれど真っ直ぐな久重の視線を受け止め、黙っておくことはできないと…そう思ったから。 「久重」 初めて声を掛けた場所。 池のほとりのベンチに腰掛け不破は久重に向き直った。 「君に、」 「…!!」 緊張でぎこちないながらも手を動かす。 「伝えたい、ことがある」 たどたどしくも不破が見せる初めての手話に、久重の瞳が大きく揺れた。 「あで、ゆあを(なぜ、手話を)」 僅かに震える声と、不破にも読み取りやすいようにゆっくりと動かされる白い手。 口で話すのとは違う…それは、あの日分からなかった久重の本当の音。 「勉強、してた。久重の声…音が聴きたくて」 「…………」 「同じ音を、使いたい。目を見て、話したい。だから、頑張ってる。」 記憶を総動員させ口と同時に手を動かす。 途中、切れ切れになりながらも伝える。 その様子を瞬きせずに凝視してくる久重に手を伸ばした。 ありがとう…それと、ごめん。 関係を壊すことを言う俺を許して。 頬に手を添えれば動揺したように揺れる瞳。それを見つめ、読みやすいように大きく口を開く。 「今から伝えるのは、あの日の言葉。見てて。」 「…あい(はい)」 ちゃんと読み取った久重に微笑みかける。 そうして自分を指差し 次に久重を指差した。 「俺は、空を、」 「…………」 そこまで言うと大きく息を吐く。 『空』と呼ぶのはこれが2度目。 緊張で心臓がバカほど煩い。 久重の目を見つめ不破の左手が軽く握りしめられた。 そして右手を開くと撫でるように拳の上をクルクルと回しながら、静かに告げた。 「愛してる」 「!!」 久重が口を押さえ固まった。 驚きに開かれた目、その様子だけでちゃんと自分の想いは伝わったのだと分かる。 「空のことが、好きだよ」 もう一度手話を繰り返せば久重の肩が震えた。 見開かれた瞳が潤む。 口から外された手が震えながら不破の手を握った。 「…あいあとう(ありがとう)」 小さく呟くとそのまま俯き久重は黙ってしまった。 困らせただろうか。 それとも気味悪がられた? 急に友人から告白されて、どうしたら良いか分からないよな。 不破がそう考えていると包まれた手にギュッと力が籠った。 「空?」 やがて顔を上げた久重の表情はどこか緊張しているようで。 「…………」 「え、」 白い手が胸の前で動く。 真っ赤な顔、結ばれた唇。 何も言わない、けれども奏でるように丁寧に紡がれる久重の『音』 その音を目にした不破は。 「…………」 首まで赤く染まった久重の身体を強く抱き締めたー。

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