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第75話
side晴海
父さんの話を聞いて、僕は涙が止まらなかった。
「父さ…ん…ありが…とう…」
父さんを抱き締めて泣いた。
「凪?」
父さんの手が凪を呼び、凪も一緒に父さんを抱き締める。
昨日あれだけ泣いたのに、まだ涙って出てくるんだ。
それでも涙が枯れるまで泣いた。
父さんは、明日も仕事だからと夜になる前に戻って行った。
「僕は君達を愛しているよ」
確認するようにそう言った。
その日、夕食を終えて母さんを交えて三人でいろいろ話をした。
「優さんは本当に優しくて細かいところにもよく気づいてくれてね、、」
「それ、ノロケだよ」
「そうそう」
まさか母さんのノロケ話を聞く日がくるとは…。
「もしかして、本当に父さんのこと好きなの?」
凪が余計な事を言った。
「当たり前よ!カッコいいし、優しいし、王子様みたいでしょ」
ああ、母さんもちゃんと父さんのことが好きなんだ。
天国にいるお母さん、ぼくらはみんな幸せです。
心の中でそう報告した。
「そういえば、直樹くん帰ってきてるでしょ?」
僕はドキッとした。
「直くんのお母さんに会って聞いたのよ」
え?
「知ってるの?」
「当たり前でしょ。隣に住んでたもの」
あ~そうか、そうだった。
「たっくんも大きくなったでしょうね」
「たっくん?」
誰だろう?
「直くんの双子のおにいちゃんの拓己くんよ?忘れちゃったの?」
仲が良かったのにね、と母さんは言ったがそんなに昔の話をされても…。
「拓己って、安堂拓己?」
ガチャン、凪が突然立ち上がりコーヒーカップを倒した。
中身はほとんど残ってなかったから零れてはいない。
「そうよ」
母さんの言葉に凪は凍りついた。
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