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第1話『直×拓編』

side拓己 一番古い記憶は自分が泣いている記憶。 必死に手を伸ばすが小さな指は宙を掴み、止まらない涙を拭うことすら出来ないでいた。 夜は嫌い。 …見る夢が辛いから。 一人寝で目覚める朝は、残酷だ。 朝の光に起こされ、しぶしぶベッドを後にした。 オフクロに起こされはしたけれど、結局ベッドで惰眠を貪っていた。 「やる気でねぇな」 でないけど…会いたいから…。 「やべっ!8時過ぎてる!」 慌てて制服に着替え、スニーカーを突っ掛けて学校に向かった。 会いたくて、偶然を装って一言でも言葉を交わしたい、その思いで普段は来ない三階まで来た。 「ん?誰?」 中庭しか見えない窓から下を見ているチビがいる。 オレよりも背が低い! 驚きと親しみが湧いてきた。 (何してんだ?) ちょっとした好奇心だった。 「おまえチビだな」 声を掛けるとこちらを向いた。 だが答えるでもなく再び窓の下を見ている。 (声かけてんのに…) 「シカトすんなよ」 イラッとして声が大きくなる。 相手は嫌そうな顔を隠すこともなく 「…なんか用?」 とだけ言った。 眉間に皺を寄せ、愛想の欠片もない。 ぱっと見は、小学生が学ランを着てるようだ。 そう思うと可愛く見えないこともないか。 小柄な者同士、ここはオレが一つ大人になろう。 「そんな嫌そうな顔するなよ」 肩に手を置き逃げる体に顔を近づけた。 「オレ、安堂拓己。オマエは?」 「桜井凪」 「ナギ、か。オレのことはタクミって呼べよ」 最大限譲ってやってるのにさらに嫌そうな顔になった。 ふんわりと揺れる色素の薄い髪がまるで王子様のようなのに、この外見と中身が釣り合ってない。 コイツ面白いな。 「気に入った。仲良くしようぜ、凪」 ここに来た目的を忘れて、オレは上機嫌で階段を降りた。

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