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第56話 『直×拓編』

side拓己 二学期が始まって一週間が過ぎた。 学校帰り、ラインの通知を知らせる振動が怖い。 直樹から会いたいというラインが何通か来たが、いろいろ言い訳をして会えていないのだ。 ポケットの中で携帯を握る。 会いたい… …会えない。 顔を見て話をするのが怖い。 また、さようならって言われるのが…。 オレは直樹にだけは嫌われたくない。 …どうしよう。 誰にも相談出来ない。 考え事をしているうちにマンションまで帰りつき、エレベーターの14階のボタンを押した。 14階の角部屋、歩きながら鍵を取り出してドアに向かうと直樹がドアに寄りかかっていた。 「あっ」 反射的に一歩後退ったが、手首を捕まれて俺は逃げることを諦めた。 姿に気づかなかったのは通路から奥まった所にドアがあったから。 「今日は話をさせて」 じっと見られても目を反らせてしまう。 「…うん」 鍵を開け、直樹を部屋に招き入れる。 「待ってて。今、飲み物…」 「いいから、こっち」 腕を引き寄せられ、直樹に包まれた。 直樹の胸に抱かれて息が止まる。 最後、こんな風にされたら…未練がのこるじゃん! 肩が細かく震え、頬が濡れる。 「やだ…止めて…」 言葉と裏腹に、体は拒否出来ない。 直樹の胸に無意識にすり寄ってしまう。 「どうして?泣いてるの?」 優しく髪を撫でないで…。 俺の顔を見ないで…。 「別れるって…言いにきたんでしょ…」 言葉まで震える。 「はぁ?」 急に肩を掴んで俺を胸から引き剥がした。 「なんでそんな事になってんの!」 言葉尻が荒い。 怒ってる?どうして? 「だって…俺達…兄弟だし…」 「そんなの知ってるよ。だから?」 予想もしていなかった直樹の言葉に、俺は自分の想像力の無さを思いし知った。

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