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第55話 『直×拓編』

side拓己 気付いた時には母子家庭で、授業が終わるとオレは家で過ごしていた。 学童保育に入れられた時もあったが、母さんのお迎えが間に合わず初日で断念。 以来、放課後は一人の時間になった。 一緒に過ごしてくれる友達もいたのだがすぐに離れてしまう。 それはオレの性格的なことが原因だった。 オレは察することがそれほど得意じゃない。 特に他人の感情。 相手が何を思っているのか、よく分からない。 だから自分の気持ちを押し付けて相手を不快にするらしい。 それに気付いたのはまだ低学年の頃。 同級生と遊んでいた時(オレは遊んでいた、と思っていた)、細かなやり取りは忘れてしまったが 『僕の気持ち、拓己くんにはわからないの?』 と言われて 『自分じゃない人間の気持ちなんて興味ない』 と真っ向から否定したら次の日から総スカン…。 今覚えば、”興味ない”ではなく“忖度できない”って感じだと思う。 分かろうとする気持ちも多分他人より少なかったのだと思うが、それは今も変わらない。 高校生になってもオレは実の母親の感情すら分からないのだから。 朝から晩まで身を粉にして働き、休日は家事をこなす。 甘えて腰にすがっても、強い言葉で遮られる。 そんな経験を重ねたら、子供心に甘えることもしてはいけない事になっていた。 話し掛けることも憚られ、会話を忘れた。 母さんの気持ちを知りたいと思っても尋ねる事が出来ない。 母さんは直樹の事をどう思っているのだろう。 オレが直樹と会うのを嫌がったりしないだろうか。 記憶の底に沈んだままの父親は、オレと直樹が会う事を批判するだろうか。

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