135 / 179

第54話 『直×拓編』

side直樹 「拓己のプライベートに関わる事だから、彼の許可無しには言えないけどね」 黒い実験台に骨盤をのせるように体重をかけて腕を組んでいる。 根暗で引きこもりだと思っていた晴海の弟は随分その雰囲気を変えていた。 子供の頃からは想像出来ない程に、やけに自信満々に答えてくる。 気に入らない。 俺は桜井の前にある実験台に両手を付いて、正面から対峙している。 「とにかく、拓己に、俺の兄貴に近づくなよ」 拓己を守らなければ。 「したこともない」 チッ、どの口がいうんだか! 桜井が勝手に俺と拓己の関係を話すから拗れたんだ。 もっと慎重に進めていたら…あんなに取り乱すこともなかったろう。 「これ以上拓己を傷つけるな」 「橋本もな」 俺? 「俺は誰も傷つけてない!」 「そうかな」 俺が?いつ? 「でまかせを言うな!桜井」 「お前がしていた事を拓己に言えるのか?」 俺と晴くんとの事を言ってるのか? どうして? まるで知っているかのように言う…。 俺に何が言いたい? 「…」 言い返そうとして、言葉が出なかった。 「だから言っただろ?“橋本が思ってる以上に”って」 …惑わされるな。 桜井は俺を動揺させてるだけだ。

ともだちにシェアしよう!