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第72話『直×拓編』
side直樹
「わっ…わぁぁ…」
掛け布団を持っていかれる感覚と同時に叫び声が聞こえ、ドシンと音がして強制的に目覚めた。
ベッドの下を見ると床に拓己が転がっている。
「いてて…ち、違うんだ」
俺と目が合って、慌てて言い訳を口にする。
「オレ、昨日すぐ眠っちゃったからシャワーでも浴びようかなって…でも直樹起こすの悪いからそっと起き出したのに布団に足を引っかけちゃって…」
「…で、コレ?」
こくん、と頷く顔は真っ赤でなんとも可愛らしい。
俺はベッドから降りて拓己の手を取り立ち上がらせた。
「痛みはない?」
「うん、サンキュ…オレ シャワってくる。まだ早いから直樹は寝てろよ」
「うん、気をつけて」
起き出して朝食の準備でもしようかと思ったけど…まだ朝六時。
昨日は少ないとはいえ引っ越しの荷物を運んだせいか体は怠い。
拓己が風呂をあがるまで惰眠を貪ろう。
ほのかに暖かい布団に頬擦りして、二度寝をキメた。
ふんわりと香るシャンプーと肌の匂い。
空腹で目覚めれば十二時を過ぎていた。
「昼…ってか午後…。二度寝恐るべし」
二度寝の原因をきゅっと抱き寄せて髪に鼻を埋めた。
湯タンポの如くほかほかした温もりの発信源は、拓己。
拓己は無防備な顔ですよすよと寝息をたてている。
髪に顔を埋めたまま、すーっと息を吸い拓己を堪能する。
湿度を伴った拓己の匂いを嗅ぐとドクンと鼓動が高鳴った。
拓己の体をそっと抱き寄せ額に口づけを落とし、拓己の前髪を掻き上げて撫でつけるとふるふると震えていた。
「目、開いてる…」
「だって…くすぐったいよ」
「っ、このっ!」
拓己の上に覆い被さって力一杯ぎゅっと抱き締めた。
「好き好き、大好き!」
「オレだって!」
拓己に抱き返されて二人で一つの大きな塊になる。
「もう、そこは略さないでちゃんと言ってよ!」
「オレも直樹のこと、大好き!」
見つめ合ってキスをした。
自然に脚と腕が絡みあう。
向きを変え、深さを変えて、長く…長く。
そしていつの間にか部屋にはぴちゃぴちゃと水音がし始めていた。
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