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第1話

 ふわりふわりと暖かな温もりに包まれながらシェリダンは目を覚ます。優しく逞しい腕がシェリダンの身体を包み込むようにして抱きしめていて、彼の体温を直に感じた。  凍えそうだった冬もとうに終わり、降り注ぐ太陽の光が鋭さを増し、大気が熱を孕む季節がやってきた。素肌に触れている掛布団も冬の厚手ものもとは違い、薄く透ける紗織のものだ。寝室には水を張った器に入れられた氷塊が涼しさを与えてくれるので、大の大人二人がぴったりとくっついて眠ったとしても暑さに魘されることはない。  もぞりと身じろげば、抱きしめてくれていた逞しい腕が上にあがり、シェリダンの銀の髪を撫でてくれる。どうやらいつものごとく、彼はシェリダンが起きるよりも先に目を覚ましていたようだ。 「……ァル」  起き抜けのふわふわした声でシェリダンは自らの夫を呼ぶ。名を紡げば迷わず唇に柔らかいそれが降ってきた。チュッと啄まれて、次いで額にも落とされる。 「おはようシェリダン」  抱きしめられたまま上体を起こされる。アルフレッドの胸に頭を預けた状態でシェリダンは目を擦り、眠りから覚醒した。 「おはようございます」  少し掠れているシェリダンの声に、アルフレッドはサイドテーブルに置いてある水差しから水を注ぎ、自らの口に含んでシェリダンに口移しで飲ませる。シェリダンも喉が乾いていたのか、コクコクと貪るように飲み、もっとと強請るようにアルフレッドの唇を舐めた。そんな猫のような仕草にクスリと笑みながら、シェリダンの望むままに幾度も口移しで水を飲ませる。コップ一杯を飲んで漸く、シェリダンは満足したようだった。  少ししてエレーヌが女官を従えてやってくる。いつもの通りアルフレッドに抱え上げられ、用意された湯船に浸かった。 「シェリダン、今日は先日同盟を結んだサーヴェ公国の使者が来る。相手も公族だから揃って出迎える予定だ。朝食が終わったら俺と一緒に広間の方へ」  膝の上に座らせたシェリダンの肩にアルフレッドは湯をかけながら話す。シェリダンもすっかり起きた頭で予定を組み立て、アルフレッドの言葉に頷いた。 「わかりました。確か、三日程のご滞在でしたよね。公子と公女のお二人がご使者として来られると言っておられたように記憶しております」  元執務官であるシェリダンの頭脳は未だ健在のようだ。満足そうにアルフレッドはシェリダンの髪を撫でる。 「ああ。確か公子はシェリダンと同い年だったか。公女はその二つ下と聞く」  ふむ、と脳内を整理しながら頷けば、アルフレッドはシェリダンの痩身を抱き上げ、湯から上がった。待ち構えていた女官たちが大判のタオルを広げて水滴を拭き取ってくれる。二人の会話を邪魔しないよう静かに、女官たちはシェリダンの身体に鈴蘭の香油を塗り込んでいった。

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