5 / 5
大公
廃墟。
ここに近寄る者はいない。
悪魔とエクソシスト以外は・・・
ひらりと突進してくる悪魔を躱す。
一は背後のターゲットを見ることなく、悪魔に銀の弾をプレゼントする。
続けざまに下位が二体襲いかかる。
しかし弐湖が振り下ろした拳を一匹の悪魔に食らわせ横一直線に並んでいた悪魔二体とも壁に激突し絶命する。
二人の前方、一匹の上位悪魔が次々と同族を喚び出しているがあらかた片付けてしまったため二人と悪魔の間には何の隔たりもない。
スッと銃を持つ腕を上げ撃つ。
ダァン!ダァン!
二つの発砲音と共に悪魔に眉間と心臓から膨大な量の血が吹き出、悪魔は死んだ。
「しゃっ!13体目!!」
「なんとか間に合った・・・」
弐湖が拳を掲げ歓喜し、一は胸に手を当てほっと一息をつく。
二人の背後・・・というにはかなり後ろにだが壊れたレンガの山の上に腰を下ろし紫煙を吹かしながら笹目騎は誰かに電話をかけている。
「戦闘データぁ、送ったから♡そうそう、三作以外の久方兄弟。まあ私の評価は一応A♡え?Sじゃないのかってぇ?なんかねぇあの子達を毎日見ていた時代を思い出すともうちょっと動けるんじゃないかと思ってすごーく厳しく採点しちゃった♡そういうわけでよろしく~」
笹目騎は懐に電話をしまい、こちらに向かってくる弟子達ににこりと微笑みかける。
「あんたら・・・もうちょっとキビキビ動けよ♡」
「ひぃ!?」
「・・・すみません師匠」
笑顔・・・恐喝をしているような声音だが顔は笑顔である。
それに弐湖はすぐさま反応し悲鳴を上げ、一は素直に謝る。
「まあいいわぁ。結果は近日中に届くからそれまでは支部にいなさぁい。合否によっては・・・あなたたちの運命は180度変わるんだから」
間延びもせず語尾にいつもハートをつけるようなしゃべり方もせず、真剣な声音で笹目騎は言う。
ゴクリと唾を飲み込み二人は「はい」と返事をした。
そしてその二人に後日、支部長から特等昇格が言い渡される事となる。
「・・・」
体に何の快感も感じない。
普通に目を覚ますことができた。
そんな日はこの世界に来て初めてのことだ。
近くにうち捨てられていたひびが入った眼鏡をかける。
四肢は動く。
試しに舌に歯を当ててみる。
噛みきれず、甘噛みをするのみ。
裸の体を隠したくてシーツをたぐり寄せ、体に巻く。
体がだるい、穢れが大分溜まっているな・・・とぼんやりする頭で考える。
熱も出ているようで吐く息は熱い。
もう一度寝てしまおうか。
どうせサタンに組み敷かれれば一日中寝ることはかなわない。
そのまま横になろうとしたとき、【トントン】とノックの音が聞こえる。
それにびくりとし、恐る恐るドアに視線を向ける。
豪華な作りの両開きのドアは、再び【トントンッ】とノックの音を響かせ入室の許可を部屋の主に尋ねている。
しかしこの部屋の主はサタン。
三作はしばし考えた上で、何も言わぬことにした。
すると、部屋のドアがキィと音を立てて開き、華奢な少年・・・しかし瞳は紅く、自然の色ではない。
悪魔・・・
久方はさらに身を縮こまらせ、ハッとする。
(俺は、エクソシストだ。何故悪魔を恐れる必要がある)
一つ息を吐き出し、悪魔をにらみつける。
それを見た悪魔はにやっと嗤った末にパンパンと拍手を三作に贈る。
「いやぁ、話に聞くとサタンに相当嬲られてるって聞いたんだけど、そんな眼ができるなんてぇねぇ?余裕がある?それともただの虚勢?」
「だれだ・・・」
三作はシーツを握る手を白くさせるほど強く握り、恐怖を隠す。
この悪魔は風貌、口調からは想像もつかないほど濃い瘴気をまき散らしている。
下位ではない、上位、もしくは・・・
「初めまして僕はアスモデウス、サタンとは旧知の仲だよ」
「地獄の大公・・・」
「おっ?よく知ってるね。そうそう地獄を統治する悪魔の最上位、大公の位を持つ悪魔・・・それが僕アスモデウスさ。君のこともよく知ってるよ~、サタンの器。いいなぁこんな美人さんなら僕の器にすれば良かったー」
瞬きをする合間にアスモデウスはベッドに片足を乗り上げ三作の顔をのぞき込んでいた。
三作はサタン以外の穢れに触れ知らず知らずのうちに息を詰める。
「良い感じで穢れてるねぇ、フフ。サタンもいないことだし・・・ねぇ僕と遊ぼ?」
「いやだ」という前にアスモデウスがキスをする。
その瞬間からだが沸騰するかのように熱く快楽の熱を発する。
「あっああ!」
「かーわい」
三作よりも若く華奢な少年に三作はなすすべもなく押し倒される。
「うーん、眼鏡じゃまだなぁ。これ、もういらないよね?」といわれ眼鏡を取られ遠くに放り投げられた。
「サタンとはいつもどんな風に交わってるの?」
「ひぃあ・・・・」
乳首を擦られ、母乳が出る。
「わぁ。サタンってば変態♡でも僕もこういうの好きだから僕も変態かなぁ」
「何をしている」
サタンの不機嫌な声が聞こえた。
目の前にはアスモデウスがいてサタンを見ることはできないが、怒っているようだ。
「わぁサタン帰ってくるのはやーい」
「アスモデウス、我は聞いたが?何をしている、と」
「もぉ、そんなに怒んないでよ。・・・ただの味見だから」
「・・・」
「自分の配下には味見させるくせに僕たち大公には味見どころか姿も教えてくれないからこうなるんだよ?」
アスモデウスは三作から渋々離れサタンの眼前に立つ。
身長差もあって子供と大人が会話をしているような光景とは裏腹に発せられる瘴気は上位悪魔一体の時だけとはまた違い、濃く重い。
息ができない。
ベッドに倒れたまま起き上がらない三作にサタンが気づき近寄る。
「アスモデウス。これと遊ぶのは完全な器となった後で、だ。そうなった際にはいくらでも貸してやる」
「ほんと?やった!約束だよサタン!」
サタンとアスモデウスはいくつか言葉を交わすと「じゃあね!」とアスモデウスが元気な子供のように挨拶をしてドアから出て行った。
サタンはほとんど意識のない三作を抱き起こすと、三作の頬を撫でそして自らの腕を傷つける。
「すすれ」
一言短く命じると。
口を小さく開き三作が血を舐めとる。
――――もうすぐだ
――――もう少しで、我はこの地獄から自由になれる・・・
――――そして、あいつらを・・・
サタンの感情が三作と共有され流れ込む。
三作は、静かに目を閉じる。
「やれやれ。その考えには至極同感だが・・・相手が悪すぎる」
暗闇で自らの翼を整えながら【天使様】とやらが嗤った。
ともだちにシェアしよう!