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第10話 Starry quartetto

「…とりあえず上がって。」明日駆は虚ろな瞳のまま、真秀を家の中に案内した。 「それで話って?」「あいつとの関係を絶ってきた。」まっすぐ、真剣な瞳で明日駆を見つめる。 「あいつって?」「凛だよ。あいつとはもうただの友達に戻ることができた。すっきりできたから今度はお前に伝えたい。」「何を。」「お前と出会って過ごして感じた気持ちを。」 心が空っぽになっている明日駆に、懸命に真秀は投げかけた。 「最初はすげぇ損しやすいヤツだな、と思った。」「そうだね…」「凛の流した噂で心痛めて学校来れなくなって、その前だってノート押し付けられて、それを全部受け入れようとして…」 「誰かが得をすれば誰かが損をする。それは当然でしょ?」明日駆は空っぽなまま、乾いた笑顔を作った。 「俺はどんなお前の顔も好きだ。でも…損して苦笑いする顔より、百点満点の笑顔が好きなんだよ。」「…何が言いたいの。」明日駆は懸命な真秀の呼びかけに呆れた声音で返す。 「俺はお前を支えてやりたい。笑顔をそばで見れる存在でありたい。だから…俺と付き合ってください。」震え、うつむき、必死にその言葉を口にした。 「…あのね、僕も真秀に恋したんだ。でもどうせ叶わない恋だよ。」「どういうことだ?」「だって僕、1ヶ月も学校休んだんだよ。学校に戻ったら皆に笑われる。そしたら真秀も僕といることが辛くなって逃げ出すよ。」「そんなことない!」そんな明日駆の言葉に、真秀は一瞬カッとなった。しかし冷静さを取り戻し続ける。 「…いや、最初は俺もそう思った。でも明日駆への想いは日々増していく一方なんだ。返事は文化祭でいい。頼む。だから文化祭までには来てくれ。」 文化祭当日、真秀の懸命な誘いに折れ、明日駆は久々に登校した。海たちとも顔を合わせた。ステージの時間も迫っていた。 「校内金のアーティスト決定戦!最後を締めくくるのは『Starry quartetto』です!」アナウンスが流れる。Starry quartetto。明日駆たちのバンドの名前。期限ギリギリに決めた名前だ。曲名から取っただけだが。 真秀を先頭にステージに上がる。その時明日駆の耳には、嘲笑するような、そんな笑みが聞こえた。それは徐々に大きくなっていく。恐怖に足がすくみそうになり、司会者も状況の変化に気づいたその時、司会者のマイクを取り上げた真秀が大声で叫んだ。 「黙れよお前ら!」明日駆はずっと真秀の顔を見ていなかったが、この時久しぶりに顔を見つめた。怒りをあらわにした横顔だ。 「俺らの顔に何かついてるか。明日駆がバカなら俺もバカ、明日駆がホモなら俺もホモ、俺ら二人は運命共同体!だって明日駆は俺が好きで…」熱のこもった口調で早口に語る真秀に耳を傾けた。その表情は怒りに満ちながらも、まっすぐと前を向く光のような眩さを感じた。そして、再び口を開いた。 「俺はもっと明日駆が好きだからだ!!」「真秀…」明日駆の虚ろだった瞳に輝きが戻る。 「…よく言えたね。」「本当に、時間がかかりましたね。」海と蒼も感慨にふける。 「真秀〜」「よくやった〜」一方の観客席、こっそり見に来ていた春矢と輝も親心で感動していた。 彼らの、星のように皆を照らす四重奏、スターリィカルテット。音色が鳴り響いた。 ステージ裏、楽譜を握りしめて音楽に耳を傾ける人物がいた。 「頑張って、応援してるよ。」と小声で囁いた。四人それぞれの音色と恋の音、最後まで見届けてあげる。彼の心の中には輝きが詰まっていた。 演奏終了からしばらくして、間も無く結果発表の時間となった。 「映えある第1位は〜!?」長いドラムロールの後、ステージに立つ四人に思いがけない言葉が投げられた。 「Starry quartettoです!!さぁ、日比谷くん、コメントを!」ぽかんとする四人をよそに観客は一体となり盛り上がる。先程笑っていた人たちも今は拍手を送った。明日駆がマイクを受け取る。 「あの、この場を借りて一ついいですか?」そう言って横目でチラリと真秀を見た。 「彼とならどんな困難にも立ち向かえる。そう思いました。だから…」すうっと息を吸い込み、次の言葉を大きな声で響き渡らせた。 「僕も真秀が好きです!今日から正式にお付き合いします!!」はっきりと言い切った明日駆は、なんだか体がじんじんと熱くなっていく感覚がした。真秀は涙ぐみながら、明日駆をぎゅっと抱きしめた。観客に背中を向け、明日駆の頬にキスを落とす。 「感動をありがとーう!!」春矢と輝も堪えきれず大声で歓声を送った。 寂しく孤独な演奏は、いつの間にか大きくなって…彼らを包む賛歌となった。

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