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第9話 大好きだったよ
「へぇ、そうなんだ。ちょっと意味が分からないなぁ。教えてくれる?」真秀の言葉に笑顔のまま凛が問いかける。
「お前との友達以上恋人未満の関係に、終止符を打ちたいんだ。」真秀も強張った顔のまま答える。
「この関係に終止符を打ってどうしたいの?」「元の関係に戻る。」「元の関係って?」真秀は時折足がすくみそうになるのをこらえる。
「他愛ない会話が楽しくて仕方ない、友達に戻りたい。」また始めて出会った頃を思い浮かべる。
「恋人じゃダメなの?恋人の方がもっと深く愛し合えるよ。」凛は真秀とのしがらみなんてまるでないかのように清々しい笑顔でまた問いかける。
「お前とはもうその関係は築けない。でも…」ぎゅっと拳を握りしめて勇気を振り絞り次の言葉を発した。
「前までお前のことが好きだった。」「今は違うの?」「そう。今は違う。幼稚園の頃、引っ込み思案だった俺に凛は明るく話しかけてくれた。」懐かしい記憶が二人の間で共有される。何一つ汚れのない関係だったあの頃の記憶。それから時が経ち、中学時代の話に移る。
「いつしか俺は凛に恋していた。いつも目で追っていた。でも、中学に入ってから凛は俺に素っ気なくなった。嫌われちゃった。男なんかに好かれて迷惑だよな。って…」凛の笑顔が徐々に消えていった。動揺の色が見えていた。
「でもある日、凛は俺に告白してきた。俺は嫌われたはずなのに、なんでってなって、気持ちがわけわかんなくなった。言葉が出なくて曖昧な返事をしたら、凛はそれまで見せたことないような瞳で俺を無理やり…。その瞬間、俺の恋は終わった。そう思った。…凛?」真秀が目をやると、先ほどまでの飄々とした顔の凛は何処へやら、うつむき目を合わせてくれない凛の姿があった。
「そ、そう。じゃあ次は僕の話を聞いてよ。…ずっと友達だと思ってた真秀に、中学時代突如恋に落ちた。でもどうすることもできなくて、真秀と顔を合わせるのが怖くなった。」凛は震え交じりに言葉を発する。
「でも気持ちが落ち着いてやっと告白。一世一代の告白だったけど、ぎこちない反応をされた。カッとなった僕は無理やり真秀を抱いた。…こんな…感じだよ。」凛は一歩後ずさった。
「凛」「もし、あの時僕が真秀を避けてなかったら、両思いだったんだよね。」全てが消えてゼロになったような、もう後戻りできない後悔の念で凛は押し潰されそうになっていた。
「…そうなるな。」「僕の家は昔から仕事で親がなかなかいなかった。寂しい思いをしてきたから、愛している人には強く強く依存しちゃうんだよ。だから多分これからも君に恋して、愛し続ける。君のこと、人として大好きだから。」血の気の引いた顔の凛。最後に笑顔を取り繕った。
「…俺も大好きだったよ、凛。ごめん、そろそろ行かなきゃ。」「バイバイ、真秀。」神様、今日だけは、枕を濡らしてもいいよね。凛は最後に小さく「大好き」と呟いた。
学校を出た真秀が向かった先は、明日駆の住む家。何回もインターホンを鳴らすが出てこない。いい加減やめた方がいいか、と諦めかけた時、ドアが開いた。
「どちら様ですか?」「…久しぶり、明日駆。」寝間着姿のまま、どこか虚ろな瞳の明日駆が玄関に出てきた。
「真秀…慰めなんかいらないよ。」
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