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6月15日(土)12:42 最高気温30.6℃、最低気温17.2℃ 晴れ
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カツ丼、リベンジ。
おとといの疲労からか昨日は昼過ぎまで寝てしまって、胃腸もお疲れモードで、とても揚げ物なんて食べられるような気分じゃなかった。
でも今日こそは作れそうだ。というかいい加減作らないと、せっかく買った豚ロースを駄目にしてしまう。
樹のいないときに、樹の好きな、手間暇の掛かる料理を作る。
ささやかな復讐に、思わず口の端が上がる。
揚げ物は最近受け付けなくなってきたと言っていた樹だったけれど、カツ丼を前にしたときは、食欲旺盛な学生に戻ったみたいに目を輝かせて、言った。「コンビニのとか外食のとかは油っこくて駄目だけど、お前が作ったのなら全然いける」
胃袋をつかむ、とはこういう感覚なのか、と震えたことを思い出す。
でもまあ、胃袋をつかめたところで心までつかめるわけじゃない、という現実をすぐに思い知らされたわけだけど。
クソ暑いときにコンロの前に立つのは勇気がいるけれど、今日はクーラーを解禁してガンガン冷やしまくっているから心置きなく揚げ物ができる。というかさっきまでクーラーの風が直撃する場所にいたものだから、この熱が丁度いいくらいだ。思えば一昨日、スーパーに買い出しに行っておいてよかった。梅雨に入ったはずなのに、太陽がこれでもかとぎらついている今日は、できれば外には出たくない。
揚げたてのカツに包丁を入れたときの、ざくざくいう音。これだけで作ってよかった、と思える。最後に三つ葉を載せると一気に見栄えがする。
「あーっ、美っ味いなー!」
ひとくち食べて、思わず声に出していた。
あー、美味い。本当に美味い。
料理番組を見ていると食欲がわいてきちゃうけど、いざ作り出すとお腹がいっぱいになって、出来上がったときには食べられない……なんてことがよくあるけれど、今回は腹の減り具合と出来上がるタイミングとが丁度いい感じだった。
樹の方からから「美味い」と言ってもらえることはもう諦めているけれど、そういえば自分の方から「美味い」と言うこともなかったな、と思い返す。自分から「美味いだろ?」なんて、自画自賛っぽくてちょっと……と思っていたけれど、でもこうやって口にすることは大事だと思う。それだけで倍美味しく感じられる。声に出した方が気持ちいいってのと一緒だな。……いや、違うか。
でも樹は、口にすればするだけ陳腐化する、と思っている節がたぶん、ある。口にした途端、空気に触れた途端、ぼろぼろと劣化していく、と。だからあれだけ無言に耐えられるんだと思う。そうじゃないと説明がつかない。
いい、とか、好き、とか、もっとして、とか連呼していたら、口を手でふさがれたときのセックスを、唐突に思い出した。この鬼畜野郎、と涙目になったけれど、ふさがれたまま揺さぶられるのが意外に気持ちよくて、ハマってしまった。ゆるい拘束、というか、キスもさせてもらえずもどかしい感じ、というのが、今まで味わったことのない快感すぎて、何て言うかもう最高だった。アッタマ悪い感想文になってしまうけど、ちょー最高で、ちょー気持ちよくて、やりまくりたかった。でも流石に樹はやり過ぎたと思ったのか、それからそういうことをしてくることはなくなった。何でもかんでも割とあけすけに話す日向だけど、それでもやっぱり、拘束してほしいとか乱暴にしてほしいとかなじってほしいとかまでぶっちゃけるには恥じらいがあって、言える精一杯のラインが「……好きにして」だった。ていうか、普段あんだけひとのことを蔑ろにしてるんだから、セックスのときも蔑ろにしろよ。できるだろ。そういう才能あるだろ、お前、絶対。需要と供給マッチするぞ。心ない言葉でも、セックスのときだったら全然ウェルカムで受け入れてやるよ。あとで、あのときこんなこと言って……とか、恨み言は一切言わないからさあ。
カツの二切れ目を箸でつまんで、あっ、と思う。
まだ一切れしか食べてなかったから、あいたスペースにカツをつめてカモフラージュし、スマホで写真を撮って、樹に送ってやる。『見てみてー、すっごいいい感じにできたー! 仕事頑張ってねー』
分かりやすすぎる嫌がらせだ。
どうせ返事はないだろうと思っていたら、速攻で返事があって、びびった。
『二日酔いのときに気持ち悪いもん見せんな』
ふはっ、と思わず声に出して笑ってしまった。
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