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第1話

流石に丸一日何も食べてないのは厳しいな。 近くで住み込みでも働けるとこはないか。 土砂降りの雨も降り出して、すっかり服も濡れて身体が重く、計画性のない脱走に諦めようかと彼は重たい雨雲を睨みつけた。 「た、助けてッ、いた、痛いッ……ン、グ」 バシャバシャと叩きつけるような雨音に掻き消されそうになりながら、必死で助けを求める叫びが聞こえて、彼は濡れたフードをあげて路地を覗きこんだ。 紅の濡れた髪がぱさりと落ちる。 路地には、黒服の男達が何人か倒れていて、いかにも悪そうな屈強な男達が、学生服の少年の口に布を覆って担ぎあげようとしていた。 誘拐か!?ヤバそうだな。 迷う暇もなく彼はバチャバチャと水溜まりに飛沫を跳ねさせ、高く跳びあがると少年を羽交い締めにしていた男の腰に飛び蹴りを食らわせた。 「ッ!!貴様ッ!どこのもんだ!?」 「どこのもんでもねえよ。それに、人攫いに教える名前はもってねえな」 ふらつく少年を奪うと背中へと庇い、中腰になって男の腹に1発拳を食らわせる。 「おい、オマエ。走れるか?」 問いかけに少年が頷くのを確認して、彼はぐいとその腕を引いて路地から大通りへと飛び出した。 勢いよく走り出したのに面食らったのか、男達の動きは少し遅れて追い始める。 「このまま走るぞ。オマエの家は近いか?」 「……はぁっ、はあっ、えっ、車で……きてたので、分かりません」 ぜえぜえと胸を上下させて辛そうな表情を見て、彼は少年の体を横抱きにした。 「この近くって訳じゃないんだな。オマエ土地勘はないか。まあ、俺もまったくないけど……」 「ごめんなさい。巻き込んでしまって」 すまなそうな声に、彼は走りながら少年の頭をぽんぽんと叩いた。 「いや、みすみす目の前の犯罪を見逃せないし。まあ、そういう遺伝子なのかも」 彼は建物と建物の狭い隙間に入りこむと、追っ手が気づかずに駆け抜けていくのを見送る。 とりあえず、暫くここで身を潜めるのが得策かもしれない。 「ちっと狭いけど……少し辛抱しとけよ」 「はい……」 少年と密着した場所からふわりと柔らかい花の香りがして、ぐらりと視界が歪み彼は壁に腕をついた。 「オマエ……香水とかつけてるのか?」 「いえ……つけていないですよ。僕は、遠野璃空(とおのりく)といいます。」 「……リクね。俺は、テオ。ホントに香水つけすぎ。遠野って、あの遠野財閥の?」 テオは鼻を摘みながら、少し驚いたような顔をするが、頷いたリクに納得したようになるほどねと言葉を返した。 身代金目当てか利権目当てがわからないが、攫う目的の動機はあり過ぎる。 とりあえず、ここから出てタクシーでもつかまえて、コイツの家まで連れていくしかないかな。 テオは動き出そうとするが、ぐにゃりと地面が歪むような感覚と、ひたすら身体が熱くなり始めて、息を飲んだ。 「テオさん……大丈夫ですか?」 「……いや、ヤバいかな」 動悸が止まらなくなり、顔を覗きこむリクの顔がぼんやりと霞み始めるのに、テオは唾を飲み込んだ。 クソ、風邪なんてひいたことすらないのに、このタイミングで……。 視線を向けると、壁に錆びて朽ちかけたドアが見える。 中に入れれば雨宿りくらいは、できるか。 ずるずると壁沿いを這うようにして、テオはドアをガンッと派手に音をたててぶち殴って破壊した。 「とりあえず……俺は休んでいくから……。リク、オマエは家のもん呼んで帰れ」

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