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day6
つってもまあ、また月曜なんだけどな。
夏越との関係を多少変えたところでループに変化は出ねえなやっぱ。
俺に対する好意のせいで他の奴とは反応違うけど、
あいつの記憶もリセットされてんだよな。毎日告白されてるもんな俺。
けど正直──判で押したような会話じゃないことには救われてる。
周り全員ロボットだったら気が狂ってたかも。
それでも夏越はここから抜け出す解決策じゃねえ。
俺の行動を変えるしかないのか。そんなの何すればいいんだよ。
◇◇◇
駅のズラの人だ。こいつも毎日可哀想な奴だよな。
「そこ滑るから」
「え?あ、どうも──」
感謝しろおっさん。今日は露出回避してやったぞ。これフラグになんねえかな。
『駅で助けたハゲのおっさんが俺の未来を変えるかもしれない』
──ラノベか。
授業も全部サボってやる。もう飽きただけだけど。何回やってんだ。
死人の毛抜く老婆と下人の感情とか、テストに出たら完璧に答えてやるよ。
◇◇◇
「おい夏越、図書室行こうぜ」
「藤?え──なんで俺?」
驚いてる。初めて俺から声かけてやったからな。しかも昼休み、脈絡ない場所。
こんなんじゃ何も変わんねえと思うけど想像力ねえ俺が、ずば抜けた想定外とか思いつかねえよ。
◇◇◇
「えっと、本探してるの?」
人が少なそうな所を選んだだけだ。
あとまあお前、教室で本読んでるじゃん。好きなんだろ。
「なんかお勧めある?」
「これとかどう?映画にもなってて面白いよ」
SF……つーかループもの?すげえタイムリー、意外にこういうの有益情報だったりするか?
「うっわサンキュ。参考にするわ」
「参考?」
「いや、あはは」
「役に立てて嬉しいよ。ふふ、俺に笑ってくれる藤──かわいい」
「っかわ!?おまえ眼科行けよ」
なんか夏越が暴走したぞ。
「自分は男前だからってさあ」
人のことかわいいとか、お前に言われても嬉しくねえんだよ。
話すまで気にもしてなかったけど背高いしイケメンじゃん。
モテるんじゃね、その超陰キャ直せばな。
「俺が男前?」
「俺主観でな」
「藤は──俺がかっこいいと思ってくれてるの」
あ──なんかやばいこと言った俺。
変な雰囲気になっちゃったし、この棚人気 がねえ。
ちょっ、迫るな。近い、近いって。
「俺は……藤が、好きなんだよ」
「っふ、んんっ──」
キス、されてる。
このタイミングで告白とか、こいつこんなイレギュラーも有りか。
「藤、藤、好きだ」
「んっ、っは夏、越──っ」
舌を強く吸われて連れて行かれた先で絡め取られて──なし崩し的に深いキスになった。
夏越は全然周りが見えてない。
なんか──おかしいだろ、なんで俺もっと抵抗しないんだよ。
「藤──好き」
「も、分かった、つーの」
すごい圧のキスだった。ヘロヘロなんだけど。
大人しい奴がキレると怖いの典型だな。
「今日の帰り俺と一緒に帰ろ?」
展開早えな。しかもすげえ強気。
……まあ帰るけど。
◇◇◇
「毎日雨で嫌になるね。あ、藤は傘ないよね俺の入って」
あー俺こいつとキスしちゃったんだよなあ。
なんでお前そんな平然としてんの。俺こんな気まずいのに──。
あれ?え、おい……今なんつった?
『傘ないよね』?
俺まだパクられたこと言ってねえだろ。
手に持ってなくてもカバンに折り畳み持ってるかもしんねえだろ。
お前が知ってるわけないんだよ──次の日には全部無かった事になるんだから。
なんで断言できんだよ。
朝から雨が降ってるのに傘がないって考えにならないだろ普通。
──あらかじめ、分かってるんでもなければ。
「お前……もしかして記憶が繋がってんのか──何も、忘れてねえんじゃねえのか」
言ってる意味が分からないなら俺の勘違いだ──だけど、夏越は反応した。
「──やっぱり、藤もそうなんだね」
やっぱりって!?夏越は知ってた?そうなのか?
「じゃあお前も月曜日繰り返してるし、その分の記憶もあるのか?」
「そうだよ」
だからお前だけ違ったのか。
考えてみりゃ確かに少しずつ親密になってたじゃん。
有り得ないんだよな記憶がリセットされてたら。
俺にとってあまりに当たり前な感覚で見逃してたよ。
──でもちょっと待て。俺が夏越もNPCだと思ってたのは理由があっただろ。
「ならなんで毎回毎回、俺に告白してんだよ」
結果が判ってるくせに。振られ続けるために。
「藤、俺を殺してくれないかな」
「はあ?……なに……?」
陰険な真顔で──唐突に。
「自分じゃ怖くて」
「ソコじゃねえよ。なんなんだよ、なんでお前が死ぬ話になんだよ」
「ループの原因、多分俺だから。俺が居なくなれば藤は戻れるよ」
「話が見えねえ。一人で納得してないで説明しろよ」
「……嫌だったんだ。
どうしてもどうしても藤のこと好きで、振られても諦められなかった。
振られた現実を受け止めたくなかった。
やり直したいって、もう一度告白したいって思った。
──そしたらまた、月曜日だったんだ──俺のせいだ。
俺が藤を……巻き込んだ、ごめん。言えなくてごめん。
なのにまだ好きで──ごめん」
そんな理由で……超常現象を起こした?
自分の身に起きてなければ信じないだろうな。
否定してもしょうがないことだ。事実、起こったんだから。
そんなことはこの際どうでもいいんだよ。
分かってねえのか、自分ですごい重要なこと言ってんのに。
「死ぬ必要なんかねえじゃん。それ俺がお前を好きなら解決だろ」
振られたのがショックでループが始まって
振り向かれるまで告白しようと思ったんだろ。だったら──
「藤が俺を好き?本当なら嬉しい。けど──」
俺はお前を何度も振ってるからな。
信じられないんだよな。真相を明かした後に言われても。
元に戻るためならお前を好きなフリくらい、するかもしれねえもんな。
「──抵抗しなかっただろ」
「え?」
「キス、嫌じゃなかったんだよ。考えてもみろよ、初日じゃありえねえだろ。ぶん殴ってるよ。俺はあの日、ヒドい態度で巻き戻しが引き起きるほどお前を絶望させたんだろ。今の俺が同じに──お前には見えるのかよ」
「藤」
夏越が傘を放り出して俺に抱きついてきた。
「俺、藤を諦めなくていい?好きでいい?ずっと一緒に居てくれる?──俺のこと、好き?」
ぎゅうぎゅう抱きしめながら涙声で。
「キスが嫌じゃない程度には」
「藤──大好き」
息が止まるくらいの、がっついたキスを浴びせられる。
あー絆されちゃったな。こんなにキスが気持ちいいとか。
「……藤、もっとキスしていい?」
「──すればいいだろ」
「嬉しい──もっと抱きしめたい、触りたいし舐めたいし──藤を──俺のにしたい」
うわ言みたいに夏越が言って、手が俺の身体を際限なくまさぐる。
これはちょっと、こんなとこで見境がなさすぎねえか。ここ昇降口。
シャツの下まで手のひらが潜り込んできて、いいかげん耐えかねた俺はその腕を捻り上げた。
「調子乗んなよ」
「あ──ごめ……俺……」
我に返った夏越は泣きそうな顔で俺を見ている。
いまさっきまで狼で今度は兎かよ。
色んな顔、するよなこいつ。
「これ以上したけりゃ、ループ止めろ」
俺は腕を伸ばして夏越の首を引き寄せた。
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