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智也は雨が好き ①

智也(ともや)は雨が好きだった。 幼なじみである智也は幼い頃から身体が弱く、何度か入退院を繰り返していた。 「(もも)くん、ただいま!」 チャイムが鳴り、ガチャリと玄関のドアを開ける。そこには頬が摘めるほど膨らんだ笑顔を見せて待っている智也がいた。自分より少し背の低い智也の目線に合わせ、俺も微笑んで彼を出迎える。 「おかえり、智くん」 彼が病院から家に帰ってくる度、直ぐに俺の家に遊びに来てくれた。近所だったとはいえ、俺も学校では会えない日々が続いていたので素直に嬉しかった。 「桃くん!」 智也はその場で腕を広げていた。 「うん」 足を進めて小さな胸の中にそっと顔を近づけ、背中に腕を回した。 智也から香る少し病院の…そう、消毒液のような匂いとか、ほんのり香る甘い花の匂いが大好きだった。心臓のトクトクという音が聞こえ、体温を感じると暖かくて幸せな気持ちになれる。 智也が生きていると感じる。 俺はハグの時間が大好きだった。

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